国立大学法人
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臨床

脳血管障害の治療

脳血管障害は通常脳卒中と呼ばれますが、脳の血管が破れたり、詰まったりして起きる脳の病気の総称です。脳血管障害の患者さんの数は糖尿病と同じように多く、そのうちの半数近くは脳梗塞です。また、65歳以上の脳血管障害の患者数は約100万人で、20人に1人に相当します。我が国では、古来“風に中る”と書いて中風と呼ばれてきました。「中る」という言葉は「たまたまあたった」「運悪くそうなった」という響きがありますが、脳卒中の場合はそのほとんどに原因があります。従いまして、早期診断して適切な治療を行えば脳卒中を予防できるようになります。脳の血管が破れる病気の代表としてくも膜下出血を、血管が詰まる病気の代表として脳梗塞の話をします。


「くも膜下出血」はそれまで全く健康であった人をある日突然襲います。多くは激しい頭痛という形で起きますが、出血が激しいと場合によっては一瞬のうちに命を奪ってしまう非常に怖い病気です。人生で一番脂の乗り切った世代に発症する病気です。しかし、経過が良ければ何の後遺症も残さず退院できる病気でもあり、脳ドッグなどの検査で発症自体を予防することも可能です。ほとんどのくも膜下出血は脳脊髄液の中を走る大きな動脈にできた小さなコブ(脳動脈瘤)が破裂して起こります。ちょうど風船が大きくなるにつれて膜が次第に薄くなるように、膨らんだ動脈瘤の壁は薄くなりついにはちょっとしたはずみではじけてしまいます。破裂した動脈瘤の周囲は脳脊髄液という水で満たされているために、出血はくも膜下出血という型をとります。急激に起きた激しい頭痛があった場合、くも膜下出血の診断を急がなければなりません。通常はCTスキャンという断層撮影で診断します。CTスキャンでくも膜下出血が確認できた後は、原因が動脈瘤であるのか、動脈瘤であるとしたらどこにあるのか、そして動脈瘤がどのような形をしているかなどを確認する必要があります。そのために脳血管撮影をします。大腿動脈よりカテーテルという管を入れ、その先端を頸動脈まで進めます。その後造影剤というレントゲンに写る薬をカテーテルの中に流し込んでレントゲンを撮影すると脳動脈瘤が膨れて見え、容易に診断がつきます。脳血管撮影で脳動脈瘤が見つかれば治療となります。治療法には開頭(頭蓋骨を切り開いて行う)して行うクリッピング術と開頭しないで行う塞栓術の2通りがあります。まず、クリッピング術はクリップ(図1)という小さな金属で動脈瘤の首根っこを挟んで再破裂を予防する方法です(図2)。一方、塞栓術は開頭する必要がありません。脳血管撮影の方法とだいたい同じですが、頸動脈まで進めたカテーテルの中にさらに小さなマイクロカテーテルを入れて、その先端を脳動脈瘤の中に進め(図3)、コイルという小さなバネのような金属で内側から動脈瘤をつぶしてしまう方法です(図4)。いずれの方法も一長一短がありますが、首根っこの細い動脈瘤は塞栓術で治療し、首根っこの広い動脈瘤をクリッピング術で治療しています。ほとんどが県内外の関連病院からの紹介患者さんですが、1年間にクリッピング術を30例、塞栓術を15例ほど行っています。これまでは救急搬入が難しかったのですが、救命救急センターが軌道に乗ってくれば、2倍くらいに増加すると思います。


「梗塞」とは何らかの原因で血管が詰まり、血液が突然途絶えることで臓器が栄養不足になり、障害を受けることです。心臓の筋肉を栄養する動脈が詰まれば心筋梗塞、肺の栄養血管が詰まれば肺梗塞となります。同様に、脳の血管が詰まって起こる病気が脳梗塞です。つまり、脳に行く動脈の流れが悪くなり、血液が脳に届かないため、脳が栄養不足となる病気です。脳梗塞が起きる機序には血管が狭くなったところに血栓ができる「脳血栓症」と、脳以外の臓器(心臓など)にできた栓子が詰まる「脳塞栓症」があります。血管内で生じる血小板や血液の塊(フィブリン)を血栓といいます。また、血管を閉塞する物質を栓子といい、血栓や脂肪塊、組織片などがあります。脳梗塞の症状は、片方の手足に力が入らないとか、片方の手足にしびれ感があるというような症状が急に現れることが特徴です。たとえ、数分で症状がなくなったとしても、大きな発作の前触れ発作であることが多いので、注意が必要です。このような症状が出た場合には必ず精密検査を受けて下さい。症状を軽いうちに見つけ、適切な治療を早期から行えば、それだけ後遺症を軽くすることができ、脳梗塞を予防できる場合がほとんどです。「軽いから」あるいは「すぐに治まったから」といってそのままにしておかないで、初期段階のうちにきちんと治療をうけることが大切です。加齢や肥満、また動脈硬化を促進させる高血圧、高脂血症、糖尿病のある人ではとくに注意が必要です。梗塞に対する外科治療として代表的なものとしましては頚部内頚動脈血栓内膜剥離術と浅側頭動脈・中大脳動脈との吻合術があります。頚部内頚動脈血栓内膜剥離術は頚部内頚動脈が狭くなっている場合に、浅側頭動脈・中大脳動脈との吻合術は内頚動脈や中大脳動脈が閉塞している場合にする手術です。両者併せて年間30症例ほどの手術を行っていますが、食生活の欧米化に伴い症例数は年々増加しています。