急性糸球体腎炎


【概念】
 急激に発症する血尿、蛋白尿、高血圧、GFRの低下、Na・水の貯留を示す症候群。大部分は溶連菌感染後1〜3週後に発症するPSAGN(post-streptococcal AGN)が多い。

【原因】
 A群β溶連菌(特に12型)による扁桃炎や咽頭炎などの上気道感染と皮膚感染によるものが最も多い(80〜90%)。他に肺炎双球菌や黄色ブドウ球菌、mumpsやインフルエンザウイルスなどが原因となりうる。
 発症機序としては流血中に可溶性免疫複合体が生じ、これが糸球体基底膜に捕らえられ、補体の活性化、多核白血球の浸潤、chemical mediatorの放出等の反応を引き起こすと考えられている。In situで免疫複合体が形成されるという説もある。

【疫学】
 3〜10歳の小児に多く、この疾患の70%以上は20歳以下である。男性に多くまた秋から冬に多い。抗生物質の多用により発生頻度は減少している。

【病理】
 管内増殖性の変化を取るが、発症後3ヶ月以内に消失する場合が多い。光顕上糸球体は腫大し、富核(hypercellularity)、多核白血球の浸潤(糸球体1個あたり5個以上)、管内増殖性の変化を取る。内皮やメサンギウム細胞は腫大し、血管腔は狭小化する。蛍光抗体法ではIgGとC3が基底膜に沿って粗大顆粒状に陽性で、IgGは約3ヶ月、C3は約半年陽性。電顕上、上皮下にHumpと言われる粗大なデポジットが認められる。

PAS染色弱拡大 PAS染色強拡大 電子顕微鏡像

上図:急性糸球体腎炎症例の腎生検組織(PAS染色)。糸球体は腫大して、浸潤した好中球、腫大した内皮細胞などで血管腔はほとんど閉塞している。電顕ではHumpと言われる粗大なデポジットが上皮下に認められる。

【臨床症状】
 先行感染から1〜3週(平均10日)のち、浮腫・血尿・高血圧(三主徴)で発症する。発症初期に全身倦怠感、脱力、食欲不振、悪心や背部痛などが認められることもある。
浮腫は眼瞼周囲に著明で、顔面蒼白。胸・腹水はまれ。
高血圧は7〜8割で認められ、拡張期高血圧が著明で、2週くらいで正常化する事が多い。
初期に乏尿を生じ、回復とともに増加する。長く続くと予後不良。

【検査所見】
 尿所見:血尿はほぼ必発で、約3割で肉眼的血尿を生じる。蛋白尿は95%に陽性で、一日0.5から1.0g程度の事が多い。1〜2ヶ月で陰性化するが、遷延例やネフローゼ症候群を来たした場合は予後があまりよくない。
 血液検査:血沈の亢進と軽度の白血球増加が見られることがある。浮腫の出現とともにヘマトクリットが低下する。まれにBUNやCrの上昇が認められる。
 腎機能:RPFは殆ど変化しないが、GFRの低下が約4割で認められ、1〜2ヶ月で正常化する。尿濃縮能はほぼ保たれている。尿中Na排泄は低下しており、また軽度のW型尿細管性アシドーシスをしばしば認める。
 その他:ASLOやASKの上昇が認められる。また血清補体価やC3の低下はほぼ全例で認められ、2〜4週で正常化する。8週以上補体価の低下が認められる場合予後が悪い。

【診断】
 先行感染と臨床所見から診断は比較的容易。予後が良くない兆候(後述)が認められる場合、腎生検で確定診断を行い、治療法を決定する。

【鑑別診断】
 急性発症型慢性糸球体腎炎、慢性糸球体腎炎急性増悪、急速進行性糸球体腎炎、良性反復性血尿など

【合併症】
 うっ血性心不全、高血圧性脳症、急性腎不全など

【経過、予後】
 小児では90%、成人では50〜80%が治癒する。若年者のほうが治癒までの期間も短い。一般的には1〜3ヶ月以内に尿所見は消失するが、乏尿の期間が長い場合、ネフローゼ症候群を呈した場合、低補体血症が遷延化した場合などは予後が悪い。

【治療】
 特別の治療法はなく、対症療法に限られる。
 安静臥床と保温:病初期には安静臥床・保温につとめ、腎機能の回復を待って1〜2ヶ月で離床。その後徐々に普通の生活に戻し、約1年間医師の監視下におく。
 食事療法:高カロリー、低蛋白、減塩、水分制限が基本である。病初期にBUNが上昇している場合、0.5g/kg程度の蛋白制限を行い、回復とともに緩める。塩分制限は浮腫の程度による。
 薬物療法:病初期には腎毒性の少ない合成ペニシリンやセフェム系の抗生物質を使用(1〜2週)。高血圧には腎への影響が少ないCa拮抗薬やα遮断薬などを用いる。利尿薬はループ利用薬を用いる。原則としてステロイドは使用しない。