膜性増殖性糸球体腎炎


【概念】
 ほぼ全ての糸球体にメサンギウム細胞増殖、基質の増加と係蹄壁の肥厚を伴う腎炎。原因不明の特発性群と種々の疾患に基づく二次性群に分類される。

【原因】
 原因ははっきりしていないが、T型やV型は免疫複合体の存在が何らかの役割を果たしていると考えられる。U型は移植腎にも再発するので何らかの体液因子の関与が示唆されているが、免疫複合体、C3 Nephritic Factor、補体成分などの関与ではない。またC型肝炎や他のウイルス性疾患での腎症として膜性増殖性糸球体腎炎の組織を呈することが多いため、注目されている。

【疫学】
 成人ネフローゼの10%を占め、若年発症が多い。T型は10代と40代にピークがあり、V型は各年代に認められる。U型は10代までに認められ、疾患の活動性の高いものが多い。性差は女性にやや多い。

【病理】
著しいメサンギウム細胞および基質の増加を認め、基底膜の二重化(double contour)を伴う係蹄壁の肥厚を示す。典型的には分葉状の変化を示し、メサンギウム細胞の嵌入(mesangial interposition)によって基底膜の二重化を生じる。蛍光抗体法ではC3が係蹄壁を中心に粗大顆粒状に沈着し、fringeもしくは peripheral lobular patternを示す。IgGやC1qなども染色されることが多い。しかしU型では免疫グロブリンは染色されず、C3がデポジットを囲むように染色される。電顕ではデポジットが認められ、その部位により3つに分類される。
TypeT:内皮下のデポジット
TypeU:基底膜内デポジット
TypeV:上皮下のデポジット
日本ではT+Vが多くUはほとんどいない。

PAS染色弱拡像 PAM染色弱拡像 PAM染色強拡像 抗IgG蛍光染色像 電子顕微鏡像

上図:MPGN症例の光顕組織像。糸球体の分葉化が認められ、メサンギウム基質と細胞の増加、基底膜の二重化、蛇行、mesangial interpositionなどの所見を認める。蛍光抗体法ではIgGが係蹄に沿って顆粒状に染色され、fringe patternと言われる、染色像を示す。電顕では、電子密度の高い沈着物を内膜下に認め、メサンギウム細胞や基質の増加とともにmesangial interpositionを伴い、血管内腔は狭小化している。

【臨床症状】
3型の間で臨床症状に基本的な差はないが、U型ではより症状が厳しい。約半数がネフローゼ症候群で発症し、20〜30%が急性腎炎様の発症を示す。10〜20で肉眼的血尿を生じ、また高血圧を呈する事が多い。

【検査所見】
尿所見:高度の蛋白尿を示すことが多く、また血尿は必発。尿蛋白の選択性は低い。
血液検査:約半数の症例で原因不明の正球性正色素性貧血を示す。白血球減少を伴う場合もある。持続性の低補体血症を示すことが多く、疾患の鑑別で重要なポイントになる。
腎機能:腎機能低下を示すことが多く、また進行性の疾患でもある。
※補足:U型では低補体血症の原因にC3 Nephritic Factorが関与する症例が多い(約60%)。これはC3bBb複合体に対するIgG型自己抗体で、C3が持続的に活性化されることになり、alternative pathwayが活性化される。これはT型の10〜20%でも認められる。T型ではC3のほか、C1qやC4も低下するのでclassical pathwayが主体と考えられる。

【診断】
高度蛋白尿、血尿を来たす腎炎で、8週以上持続する低補体血症がある場合強く疑う。確定診断には腎生検を行う。

【鑑別診断】
二次性MPGNを来たす疾患を鑑別する。

【合併症】
高血圧症や貧血。

【経過、予後】
大部分の症例が経過中にネフローゼ症候群を呈し、進行性の経過をとり腎不全に移行する。

【治療】
有効な治療法は確立されていない。
抗血小板、抗凝固療法:短期的には有効であったが、長期的な有効性は証明されていない。
ステロイド治療:早期投与群、とりわけtypeTやVでは有効例が認められる。2〜2.5mg/kgのプレドニゾロン長期隔日投与、ステロイドパルス療法などが行われているが、無効例や糸球体硬化の促進症例もあるので、治療効果は確実ではない。
免疫抑制剤:有効性は認められていない。
血漿交換:有効性は認められない。