膜性腎症


【概念】
 immunocomplex型腎炎の代表で、上皮下にびまん性にデポジットが沈着し係蹄壁の肥厚を生じる。細胞の増殖や炎症細胞浸潤は少ない。大部分の症例でネフローゼ症候群を呈する。

【原因】
 抗原過剰状態で抗原抗体複合体が形成され糸球体に沈着すると考えられていたが、血中に抗原抗体複合体は証明されず、また分子量の問題などからもこの仮説は否定的。現在ではin situ IC formationが信じられている。

【疫学】
 35歳以上の年齢層に多く、70%以上でネフローゼ症候群を発症する。血尿は10%程度に認められるだけで、その程度も軽い。30%の症例は何らかの原因を伴った二次性膜性腎症のためその鑑別が必要である。

【病理】
光顕上、びまん性の係蹄壁肥厚が特徴で、メサンギウム基質の増加や細胞増殖はあまり認められない。Stageによって若干の違いが見られる。

StageT:上皮下に高電子密度のデポジットが存在する時期で、デポジットは小型で散在性、基底膜の反応性肥厚は乏しい。Azan染色で赤く染色されるデポジットが認められることがあるが、光顕上診断は難しい。
StageU:デポジットが上皮下にびまん性に分布し、基底膜緻密層から伸びた突起がデポジット間に認められるようになる。光顕上スパイクが認められるようになるが、正接方向の点状の欠損像(点刻像)の方が認め易い。
StageV:デポジットが新生基底膜で包み込まれるようになる時期で、デポジットの電子密度は低下して顆粒状、空胞状になる。基底膜はさらに肥厚するため、PAM染色で鎖状の変化や二重像を認めるようになる。
StageW:デポジットが消失し、lucentあるいは空胞状のものが散見される程度で基底膜肥厚も軽度になる。このようなデポジットの経時的変化は混在して見られることが多い。

蛍光抗体法では基底膜に沿って細顆粒状にIgGやC3の沈着が認められる。
これらの一連の経過は2〜5年必要で、新たなデポジットの供給がなければ治癒してゆく。

PAS染色弱拡大
Azan染色弱拡大
PAM染色弱拡大
PAM染色強拡大
抗IgG蛍光抗体法 電顕StageT 電顕StageU 電顕StageV

上図:膜性腎症腎生検組織。びまん性基底膜肥厚が認められるが、メサンギウム基質の増加や細胞増殖は認めない。蛍光抗体法では係蹄に沿って細顆粒状にIgGの沈着が認められる。電子顕微鏡では電子密度の高いデポジットが基底膜に沿って観察される。

【臨床症状】
 潜行性の発症を示し、数ヶ月から一年程度の潜行期間の後に病院を受診することが多い。高頻度でネフローゼ症候群を発症し、下腿浮腫や眼瞼浮腫を主訴に来院するが、一般的には浮腫の程度は軽く、一日尿蛋白も3〜5g程度のことが多い。

【検査所見】
尿所見:高度蛋白尿を示すが、選択性はあまりよくない(0.2程度)。血尿を伴うことは少ない。
血液検査:ネフローゼパターンを呈する。免疫グロブリンや補体価はあまり変化しない。
腎機能:腎機能低下を示すことはまれだが、経過とともに軽度低下を示す例も多い。

【診断】
 血尿を伴わない高齢者のネフローゼ症候群では強く疑う。確定診断には腎生検を行う。

【鑑別診断】

 確定診断には腎生検を行うが、二次性膜性腎症を鑑別するため既往歴や薬剤使用歴確認、悪性腫瘍スクリーニングなどを行う。

【合併症】
 前述のごとく様々な疾患に合併する場合がある。

【経過、予後】
 一般的には予後良好で、自然寛解を示すこともある。薬剤の有効性については一定の見解を得ていない。

【治療】
 まずは悪性腫瘍や他の合併疾患のスクリーニングを行い、問題がない場合はステロイドの経口投与を行うことが多い。プレドニゾロン40mgを4週間投与し、その後減量する。蛋白尿減少効果が乏しい場合、シクロスポリンの投与を試みることもある。