IgA腎症


【概念】
 糸球体メサンギウム領域あるいは時として係蹄にIgAを主体としたデポジットが顆粒状に沈着する慢性糸球体腎炎。免疫複合体が関与する腎炎と考えられているが、その詳細については判っていない。世界的に見ると東洋人に高頻度に認められるが、白色人種には比較的まれな疾患である。

【原因】
 IgA1を主体とした免疫複合体の形成とそれに基づく糸球体腎炎の発症と考えられているが、詳細は判っていない。

【疫学】
 わが国の慢性糸球体腎炎症例の40〜50%を占める疾患で予後良好の疾患と言われていたが、20〜30%は腎不全に移行するので注意が必要である。どの年齢層でも発症するが、20代が最も頻度が高い。15〜30歳で全体の半分を占め、男性の方がやや多い。発見形式はチャンス蛋白尿・血尿が最も多く(65%)、次いで肉眼的血尿(13%)、急性腎炎様発症となる。

【病理】
 基本的にはびまん性のメサンギウム基質と細胞の増加が主体で、高頻度にfocal/segmental lesionを示す。まれにMPGNやRPGN様の変化を伴うが、膜性腎症の組織像をとることはまず認められない。蛍光抗体法ではIgAやC3がメサンギウム領域、一部毛細血管領域に染色されるのが特徴で、しばしばIgGやIgMも染色される。このIgAはsecretary comportmentを持たない。
Hemispherical body:メサンギウム領域あるいは傍メサンギウム領域に半球状の均質な物質を認めることがあり、IgA腎症に比較的特異性が高い。

PAS染色弱拡大 Azan染色弱拡大 Azan染色強拡大 抗IgA蛍光抗体法

上図:IgA腎症の腎生検組織。軽度のメサンギウム基質と細胞の増加が認められる。蛍光抗体法にてIgAがメサンギウム領域を主体に染色されている。

【臨床症状】
 チャンス蛋白尿・血尿で発見されることが多くほとんど自覚症状を持たないことが多い。感冒などに罹患後、肉眼的血尿を呈する場合がある。血圧は10〜20%の症例で上昇を認めるが、軽症のことが多い。 

【検査所見】
尿検査:血尿が主体で、60〜70%の症例で一日尿蛋白は1.0g以下。20%が1.0〜3.5g、10〜15%が3.5g以上。血尿は若年者、発症初期、急性再燃時、巣状・分節状病変が存在するときなどに強く認められる。
血液検査:特に異常を認めず、約半数の症例で血清IgAの上昇を認める。補体価は正常のことが多い。
腎機能:20〜25%の症例で腎機能の低下を認めるが、その他の症例では正常のことが多い。

【診断】
次ページに厚生省の診断素案を示す。最終診断は腎生検にて行い、予後を判定する。

【鑑別診断】
Henoch-Schonlein紫斑病性腎炎、ループス腎炎、肝性糸球体硬化症、急性糸球体腎炎など。

【合併症】
10〜20%で高血圧を呈する。

【経過、予後】
一般に予後良好と考えられていたが、一部の症例は(20〜30%)確実に腎不全へと移行する。1g/day以上の尿蛋白を示す症例、高血圧、組織病変の強い症例、特に巣状分節状病変を含む症例などは予後が悪い。

【治療】
特異的な治療法の確立には至っていない。軽症症例では経過観察のみ。
抗血小板療法、抗凝固療法、ACE阻害薬、ARB投与等を行う。一般的にはステロイドは使用しないが、重症例や半月体形成例などでは短期間ステロイドを使用することもある。免疫抑制剤は通常使用しない。他の治療法としては食事や安静、風邪の予防、血圧コントロールなど。偏桃摘出術の予後については短期的には有効性が示されているが、長期的には有意差は示されていない。