国立大学法人
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臨床

脳腫瘍

1.脳腫瘍とは?

 頭の中、すなわち頭蓋骨の内側に発生するすべての腫瘍を総括して脳腫瘍と言います。その発生母地は脳実質(中枢神経)、脳神経(末梢神経)、髄膜、および脳下垂体があります。体の他の場所にできた腫瘍が頭の中に転移してきたものは転移性脳腫瘍と呼びます。

 脳腫瘍がどのくらいの頻度で発生するか、その発生頻度はかつてアジアでは欧米よりも低いのではないかとみられていましたが、私たちの教室と熊本県内の病院が共同で調査した結果、脳腫瘍の発生頻度は欧米も熊本も差はなく、1年間に人口10万人あたり約10人の患者さんが発生していることが明らかになりました。


2.脳腫瘍の分類(表1)

 まず大きく分けて頭蓋内に原発するもの(原発性脳腫瘍)と、体の他の場所にできた腫瘍が転移してきたもの(転移性脳腫瘍)に分けられます。

 原発性脳腫瘍はさらに脳実質内からできる腫瘍と、脳実質外(脳神経、髄膜、脳下垂体)からできる腫瘍とに分けられます。

表1

原発性脳腫瘍
脳実質内からできるもの
  1. 神経膠細胞由来(神経膠腫)(23 %)
  2. その他
    • リンパ腫(2.8 %)
    • 胎生期遺残組織由来(胚細胞腫瘍)(1.8 %)
脳実質外からできるもの
  1. 髄膜由来(髄膜腫)(31 %)
  2. 脳神経由来(神経鞘腫)(8.8 %)
  3. 下垂体前葉由来(下垂体腺腫)(18 %)
  4. 胎生期遺残組織由来(頭蓋咽頭腫)(2.3 %)
転移性脳腫瘍
  • 脳実質への転移
  • 髄膜への転移

( )内は原発性脳腫瘍の中での発生頻度

 これらの脳腫瘍は患者さんの年齢と大きな相関があり、成人に好発する腫瘍と小児に好発する腫瘍は全く異なります。小児(15歳未満)に発生する脳腫瘍の数は成人(15歳以上)のそれの約10分の1ですので上の表の発生頻度はほとんど成人のものを反映しています。小児の場合には頭蓋咽頭腫を除いて脳実質からできる腫瘍はほとんどなく、大半が脳実質からできる腫瘍で、しかも成人のそれとは大きく異なります。小児脳腫瘍の絶対数は成人と比べるとはるかに少ないのですが、小児の悪性新生物の中で脳腫瘍は2番目に多く(1番多いのは白血病)、固型腫瘍では最も多いものです。


3.脳腫瘍の症状

 大きく二つに分けられます。まず脳腫瘍が頭の中にできて頭蓋内圧が上昇することによっておこる症状(頭蓋内圧亢進症状)と、腫瘍ができた場所あるいはその近傍の脳あるいは脳神経が障害されることによる症状(局所神経症状)とです。頭蓋内圧亢進症状は頭痛、嘔気、嘔吐が代表的な症状で、特に起床時に強い傾向があります。特に小児の脳腫瘍は頭蓋内圧亢進症状で発症するものが多く、嘔吐が前景にでた場合には消化器疾患と間違われることもあり、注意が必要です。局所神経症状はその場所により様々で、手足の麻痺・しびれ、視力・視野障害、言語障害、歩行障害、けいれん発作などがあります。これらの症状はけいれん発作を除いて、徐々にでてくることが普通です。思春期以降に初めてけいれん発作が起こった場合には脳腫瘍も含めた脳の明らかな病気があることが多く、頭の中を詳しく調べる必要があります。


4.脳腫瘍の治療

 手術と、その後の補助療法(放射線治療や薬物による化学療法)に分けられます。しかし治療法は脳腫瘍の種類によって大きく異なることを知っていただくことが重要です。一般的に言って脳実質外からでた腫瘍は手術だけで直ることが多く、一方、脳実質内からでた腫瘍は手術のみで完全に取り去ることはできず補助療法が必要です。脳実質からでた腫瘍の場合、種類によってはできるだけ多く摘出することがいい結果をもたらす腫瘍もあり、また補助療法が非常に良く効くために危険を冒して多くを摘出する必要のないものもあります。また補助療法と一口で言っても放射線の当て方や薬の種類及びその使い方等、腫瘍の種類により大きく異なりますのでどこでもできるものではなく、脳腫瘍の病態を良く理解した経験豊富な医師の元でしか行い得ません。

 手術に際しては脳実質内にできた腫瘍に対しては脳を切開して摘出するわけですが、その際に新たな神経症状を出さないことが重要で、そのため私たちは手足を動かす場所や言語中枢に隣接する腫瘍に対しては脳への直接の電気刺激を行って、摘出に際してそれらの機能が傷害されないかどうかをモニターしながら手術を行っています。また脳深部あるいは頭蓋底部の、表面からは見えない腫瘍がどの方向でどのくらいの深さにあるかを術者に教えてくれるナビゲーションシステムを有する顕微鏡を持っており、そのような腫瘍の手術に際して威力を発揮しています。

 化学療法も私たちは多くの経験を有しております。特に最近、神経膠腫の中の乏突起膠腫は化学療法に対して極めて高い感受性を有していることが明らかとなり、化学療法を併用することにより極めて良好な治療成績が上がっています。さらにリンパ腫や小児の神経膠腫、胚細胞腫瘍も化学療法の感受性が高いことが明らかとなり、手術、放射線及び化学療法をうまく組み合わせること(集学的治療と言います)により極めて良好な治療成績を得ています。以下に私たちが行った最近5年間の手術数をあげます。

9年10年11年12年13年
神経膠腫2235292727
髄膜腫1623212116
下垂体腺腫1712201911
聴神経鞘腫12910108