国立大学法人
熊本大学医学部附属病院
脳神経外科
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臨床

パーキンソン病の手術

パーキンソン病、本態性振戦、ジストニアなどの運動異常症も脳外科手術で治療することができます。定位脳手術という特殊な手術法を使いますが、当施設では、これまでに130例以上の手術を行っています。そのなかで、最も多いのは、パーキンソン病に対するものです。

パーキンソン病の多くは中年以降に発症するため、社会の高齢化が進むとともに患者数が増加しています。代表的な症状として、振戦(手足などの震え)、固縮(筋肉の強ばり)、無動・寡動(動きが少なく動作が緩慢)、姿勢保持障害(体のバランスを保ちにくく転びやすい)がみられます。パーキンソン病の治療では、薬物療法が第一選択肢ですが、薬を長期に服用しますと、薬の効く時間が短くなり、精神症状(幻覚・妄想)や不随意運動などの副作用が出現することがあります。こういう状態に陥ると、薬物だけでの治療は困難で外科的治療が必要になってきます。

わが国では2000年4月に保険適応になり、最近急速に普及してきているのが、脳深部刺激療法です。脳深部刺激を行う部位は、患者さんの症状によって選択されます。例えば、振戦は強いが他の症状は軽微な場合は、視床が標的神経核になります。また、薬物による不随意運動で困っている場合は淡蒼球が、そして無動・動作緩慢が主体のときは視床下核が選ばれます。脳深部刺激でのパーキンソン症状の改善度は各々の症例で違いますが、当施設の経験では概ね50〜80%です。従来の神経核凝固術とは異なり脳組織を壊さないためより安全性が高いと言えるでしょう。また手術後に、患者さんの症状の変化に応じて、刺激条件を任意に変換することができることも利点のひとつです。

残念ながら、現時点では、パーキンソン病を根治させる治療法はありません。脳深部刺激法は薬物治療と同様に対症療法のひとつですが、パーキンソン病治療の有力な選択肢の一つとして確固たる地位を築きつつあります。パーキンソン病治療への脳深部刺激療法の参入は、この難病に悩む患者さんにとって大きな福音となるでしょう。