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研修だより

「臨床研修を終えて」

熊本大学医学部附属病院群臨床研修医 Dプログラム
大園 一隆

 私は熊本大学附属病院2年間の研修コースを選択致しました。1年目は、腎臓内科、代謝内科、産婦人科、精神科、救急部を研修しました。2年目は、大学で病理部、呼吸器内科、消化器内科、神経内科、循環器内科を研修し、地域保健・医療枠で天草地域健診センターを選択しました。

 私は、医学部卒業後、熊本大学発生医学研究所で大学院生として細胞間接着分子カドヘリンとアクチン系細胞骨格の関係を解明する研究に従事していました。そういった背景もあり、基礎と臨床の中間的色合いの強い病理部に興味がありました。いち早く病理部に入るために、熊大通年(2年)コースを選んで必修を13ヶ月で終えて残り11ヶ月を病理部で研修することを計画していました。

 研修していく中で、病理部への想いは募っていきましたが、病理部に行く前に患者さんともう少し向き合いたいという気持ちも強くなっていきました。当初の計画を変更し、研修医2年目も様々な科を回らせて頂きました。この2年間の研修を自分なりに少し振り返ってみたいと思います。

 1年目は、とにかく、目の前のことで精一杯でした。採血やルート確保、検査オーダー、患者さんとの会話など基本的なことがなかなかできませんでした。この頃は、ささいなことでもできるようになると、とても喜んでいたのを覚えています。

 病棟業務にも慣れ、少しずつ余裕が出てくると、疾患の診断・治療のことに目が向き始めました。腎臓内科では、血液・尿検査データの解釈の仕方がとても勉強になりました。腎生検で診断をつけ、それに即して治療をするといったことも経験しました。病理診断の重要性をはじめて肌で感じたのですが、臨床経過や血液・尿検査データの推移が診断・治療・予後に物を言うことが自分の中では驚きでした。代謝内科では、血糖コントロールがとても奥深くておもしろかったです。内分泌疾患の症例もたくさん受け持ち、一時、負荷試験三昧の日々を送るなど、代謝内科ならではの経験を思う存分させて頂きました。

 この2つの内科を終えて、臨床もなかなかおもしろいなあ、というのが正直な感想でした。そして、病理では測れないもの、実際に患者さんと向き合うことでしか得られないものがあるのではないかと思うようになりました。

 次は、産婦人科、精神科、救急部で研修しました。これらの科での経験はどれも自分にとって衝撃的でした。

 産婦人科は、とても命を意識させられる科でありました。それゆえに、研修医である自分の出番がなかなか見い出せず、自分の無力さを痛感しました。そんな中、上級医の手厚い指導の下、悪性腫瘍の患者さんを受け持ち、告知や看取りまでさまざまな経験をさせて頂きました。この科で初めて、手術、そして、術後検体を切り出して病理部に提出するところまで経験しました。本当の意味で、臨床における病理の立ち位置、そしてその責任の重さを意識するようになりました。病理をしたいではなく、病理という形で医療に携わりたいと思うようになってきました。

 精神科では、患者さんに寄り添うことで診断や治療がうまくいった症例をたくさん目の当たりにしました。患者さんと向き合うことの重要性を強く認識させられました。

 救急部は、臨床研修2年間の中で、精神面・肉体面・技術面のいずれにおいても圧倒的にきつかったです。Walk inから3次救急まで結構幅広く経験させて頂きました。上級医による症例のフィードバックが充実しており、いろいろなことを教わりました。今でも、印象に残っていることが二つあります。一つは、どんなに難しい症例であっても基本に忠実であることを忘れないことです。もう一つは、学術論文の情報を鵜呑みにするのではなく、いかに目の前の患者さんにうまく還元していくかという視点を持つことです。病理医に限らず、これからの医者人生において、この二つは大切にしていきたいです。

 1年目の研修を経て、将来のためにもう少し病理以外の世界を見ていた方がよいと思いました。2年目は、病理部に加え、純粋に回ってみたいと思う科もいくつか選択しました。まずは、念願の病理部での研修でスタートを切りました。

 実際に病理部を回ってみると、やはり病理診断自体の難しさという壁に早くもぶち当たりました。でも、不思議と、病理は自分にしっくりくる感じがありました。臨床科との合同カンファレンスに参加したり、臨床の先生と病理の先生が診断について討論している姿をみているうちに、病理も臨床の一部であるということを感じました。病理を通して患者さんをみたいという想いがようやく固まりました。

 呼吸器内科と消化器内科では、病理医になることを前提として研修させて頂きました。臨床サイドが病理部に求めるものは何なのかを少しでも感じ取ることが大きなねらいでありました。しかし、病理で測れないもの、患者さんと向き合うことでしか得られないものに気づいていく日々が続きました。ここにきて、もう少し患者さんに向き合いたいという気持ちが強くなり、進路選択に迷いが出てきました。地域枠で天草地域健診センターで研修したことも臨床医になりたいという気持ちを後押ししました。大学の診療では経験できない、医師の役割を体験したことが大きかったのかもしれません。

 とうとう、神経内科の研修を通して、病理医か臨床医か、本格的に悩むことになりました。この科では特に、患者さんときちんと向き合うことの大切さを感じずにはいられませんでした。さらに、ロジックがうまくつながって病態がわかったときのおもしろさに惹かれました。神経内科の研修を1ヶ月間延長し、進路を決めることにしました。悩んだ末に出した答えは、病理医として患者さんをみるということでした。神経内科で脳血管系疾患も経験したことで心血管系疾患も勉強したいと思い、最後に循環器内科も回りました。

 振り返ってみると、患者さんや先生をはじめ、すべての出会った方々から多くのことを教わり、学んだ2年間でした。ご指導頂き、ありがとうございました。大学の魅力として、先進的で高度な医療や学術的要素が挙がりますが、さまざまなバックグラウンドを持つ先生方にたくさん出会えることも魅力のひとつだと思います。多くの課題も同時に頂いた研修生活でしたが、病理医として、一生かけてその答えをみつけていきたいです。