食事制限が必要といわれたんですが?


当科からの回答

腎臓病の患者さんでは、疾患の種類や腎機能に応じて食事制限が必要になってきます。その主なものは、十分なカロリー(熱量)補給、蛋白質摂取制限、納豆などのビタミンKが豊富な食品の制限、カリウム制限、リン酸摂取制限などです。これらの食事制限について若干の説明をしましょう。

カロリー補給:後で述べますが、たいていの腎疾患では蛋白質の摂取を制限します。この際十分なカロリーを補充しておかないと、人間の体は足りない分を体の組織を壊して持ってきてしまいます。つまり体脂肪や筋肉を取り壊して使ってしまいます。脂肪だけが燃えてくれると良いんでしょうが、体蛋白も同時に壊されるため、摂取蛋白を制限してもその効果がなくなってしまいます。したがって腎疾患では十分なカロリー摂取を指示しますが、普通の人で標準体重あたり35kcal/kg程度は必要です。

蛋白質制限:蛋白摂取量を制限することによって腎機能の低下をある程度遅らせることが出来ます。この効果はQ&A5に書いたような血清クレアチニンの推移をグラフに書くと、ある程度目でみることが出来ます。患者さんの状態によって標準体重あたり0.5〜1.0g/kgの蛋白摂取量に制限しますが、0.7g/kg以下の蛋白制限をする場合、何らかの補助食品を使わないとかなり難しいようです。もちろん十分なカロリーの摂取も必要です。

ビタミンK制限:腎臓病では血液が固まり易い状態に陥り易く、そのためワーファリンという薬を使用することがあります。これはビタミンKに拮抗する物質で、肝臓での凝固因子(血液を固めるために必要な蛋白質)の産生を阻害します。ワーファリンを使用しているときにビタミンKを多量に含む食品を取るとその効果が減弱しますので、その制限が必要になります。納豆には特に大量に含まれ、また食べたあと消化管内でも産生しますのでこの薬を使用している人には納豆は禁忌です。

カリウム制限:カリウムとはナトリウムに似た陽イオンで、全ての食べ物に含まれています。腎臓の機能が低下してくるとカリウムの排泄が低下してその濃度が徐々に上昇してきます。そうすると心室細動という危険な不整脈が生じ、心臓が止まってしまう危険性が増加してきます。そのためカリウム値が一定の値を超えないように何らかの処置をする必要があります。重曹を服用してからだが酸性に傾くのを防止すると共に、食事中のカリウムを減らすことが必要になります。カリウムは細胞の中に存在し、非常に水に溶け易いため、細胞の外に押し出せば水で洗い流すことが出来ます。特に野菜類はカリウムが豊富でまた比較的大量に食べますので野菜類のカリウム除去が最も効果的です。まず野菜類の細胞膜を破壊するため一旦過熱して、流水で洗います。こうすると大部分のカリウムは洗い流されてしまいます。根菜類は大量の水で煮て、煮汁を捨てます。また生の果物や果物ジュースは制限しなくてはいけません。要するに一回加熱して水で洗うというのが基本です。

リン酸制限:リン酸は体の中に必要不可欠な物質ですが、多すぎるとカルシウムと結合してリン酸カルシウムの結晶を体の中で作ってしまいます。腎機能が低下するとリン酸の排泄も低下しますので食事のリン酸を制限する必要があります。リン酸は、骨や甲殻類の殻などに大量に含まれていますが、リン酸塩のためあまり溶けず、そんなに吸収は良くありません。それに対し、蛋白質に結合して存在するリン酸や牛乳の中のリン酸は吸収が良いためこれらの食物を制限する必要があります。

以上の食事指導は臨床で実際の患者さんによく指示されるような指導です。でも実際の食事でどうやったらよいか、どんな献立ができるのかは、専門家(栄養士)に指導を受ける必要があります。


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