急速進行性糸球体腎炎


【概念】
 血尿、蛋白尿、乏尿、高窒素血症などを呈し、数週から数ヶ月で急速に末期腎不全に陥る予後不良の疾患。大部分は半月体形成性糸球体腎炎の形を取る。

【原因】
 根本的な原因は不明だが、何らかの免疫学的な異常が示唆される。蛍光抗体法所見によって幾つかのグループに分けられる。1)抗基底膜抗体型、2)免疫複合体型、3)Pauci-immune型の3グループに分け、3)は更にANCA陽性群と陰性群に分ける。
 何らかの原因で糸球体係蹄が破壊され血漿成分が漏れ出し、その中のフィブリンのchemotacticな作用でマクロファージがBowman嚢に遊走、上皮の増殖を引き起こすと考えられている。

【疫学】
 発生頻度は少なく、男性にやや多い。全年齢層に発生するが、中高年に多く、最近高齢者での発生が多くなっている。

【病理】
 半月体形成性糸球体腎炎像を取る場合が殆ど。血管炎の有無には細心の注意を払う必要がある。蛍光抗体法の所見によって前述のように分類する。病初期には半月体の部分にフィブリノーゲンが認められる。殆どの場合残存糸球体は虚脱に陥っており特徴的な所見に乏しい。病期の進行とともに細胞性半月体は細胞線維性、線維性と移行し、治療に反応を示さないようになる。

細胞性半月体 線維細胞性半月体 線維性半月体 抗フィブリノーゲン 抗IgG

上図:急速進行性糸球体腎炎の腎生検組織(PAS染色)。糸球体とボウマン嚢の間に細胞性半月体が認められる。時間の経過とともに線維化が進行し、治療に反応しなくなる。細胞性半月体では、同部にフィブリノーゲンが強く染色されることが多い。抗基底膜抗体が染色される場合もあるが、この場合腎機能は殆ど回復しない。

【臨床症状】
 先行感染ははっきりしない。全身倦怠感、微熱、食欲不振などの症状とともに乏尿、浮腫などが認められる。特徴的な症状はないが、血尿はほぼ必発。高血圧症が認められることが多い。

【検査所見】
尿 所 見:高度蛋白尿、血尿を呈することが多い。尿蛋白の選択性は低い。
血液検査:血沈亢進、軽度の貧血、など
腎 機 能:病初期から腎機能が低下し、BUNやCrの上昇が認められる。GFRやRPFは低下し、数週から数ヶ月で腎機能は低下する。
そ の 他:p-ANCAやc-ANCAが陽性であったり、抗基底膜抗体が認められることがある。補体価の低下を伴うこともある。
   
【診断】
 臨床症状や経過からRPGNを疑った場合、速やかに腎生検を施行し確定診断をつける。腎前性急性腎不全や腎性急性腎不全なども鑑別対象になる。肉眼的血尿を見た場合、常にこの疾患を忘れないこと。

【鑑別診断】
 腎生検を施行し、組織診断を行い、蛍光抗体法所見から疾患を分類する。二次性に半月体形成性糸球体腎炎を来たし得る、SLE、PN、過敏性血管炎、Wegener肉芽腫症などを鑑別する。

【合併症】
 色々な合併症を来たし得るが、過凝固状態あるいはDICに陥っていることが多いので注意を要する。

【経過、予後】
 急速に腎不全に陥ることが多く予後不良。特に乏尿、無尿で発症した場合予後は不良。治療効果は早期に発見されたほうが期待できる。

【治療】
 一般対症療法は急性糸球体腎炎に準ずる。その他の治療法として以下のようなものが挙げられる。
ステロイド療法:パルス療法と60mg程度のプレドニゾロン投与が選択される。
カクテル療法:ステロイド、免疫抑制剤、抗血小板薬、抗凝固薬などを早期から併用する。
血漿交換療法:抗基底膜抗体や免疫複合体の急速な除去を目的に行われることが多い。
透析療法:腎機能が悪化した場合速やかに行う。SLEの場合3〜6ヶ月無尿が続いても回復する可能性があるので組織所見によっては透析に至ってもあきらめないこと。

【RPGNの特殊型】
 Goodpasture症候群:肺出血と腎出血を伴う急速進行性糸球体腎炎の亜型。抗基底膜抗体が糸球体基底膜と肺胞基底膜の両者に反応してRPGNと肺出血を来たすが、抗原はW型コラーゲンのNC-domainのepitopeであることが報告されている。蛍光抗体法で糸球体基底膜が抗IgG抗体でlinearに染色される。疾患の予後はきわめて悪く死亡率も高いが、日本では非常にまれである(白人に多い)。