SLE-Lupus腎炎
【概念】
SLEが原因となって生じる腎障害で、その発生頻度が高くSLEの予後を大きく左右する。糸球体障害が多いが、血管炎や間質性腎炎なども生じる。
【原因】
免疫複合体、抗DNA抗体、補体の糸球体内局在などによって惹起されると考えられている。多核白血球やマクロファージなどの細胞浸潤、血小板凝集などに引き続いて多種のサイトカインや蛋白分解酵素、フリーラジカルなどが放出され、様々な反応が生じていくと考えられている。
【疫学】
SLEの46〜69%が腎障害の臨床症状を持つ。組織学的には70〜89%で何らかの所見を認める。腎障害がSLEの死因の一位を占めていたが、早期診断や治療によって近年は減少しており、中枢神経障害や感染症が死因として上位になってきた。
【病理】
病理組織像は非常に多彩で、あらゆる病型をとり得る。組織の移行型が認められ、同一の組織においても様々な病型をとり、また自然経過や治療によって組織型が変化するので注意が必要である。分類にはWHO分類を用いる。ただWHO分類では間質性病変やpericapsular
fibrosis等反映しておらず改定作業が進行中である。
Lupus腎炎の組織学的活動性病変
毛細血管壁の断裂(disruption of capillary wall)
好中球、核の破壊(polymorphs and karyorrhexis)
ヘマトキシリン体(hematoxyphil body)
細胞性・線維細胞性半月体(cellular or fibrocellular crescent)
ワイヤーループ病変(Wire-loops)
硝子様血栓(hyaline thrombi)
フィブリン血栓(fibrin thrombi)
分節状フィブリン沈着(segmental fibrin deposition)
Lupus腎炎は非常に多彩な組織像を示すが、いくつかの特徴を挙げると。
Wire-loop lesion:内皮下にフィブリンを含む多量の沈着物が連続的に存在するため、光顕上係蹄壁の一部が針金を曲げたようなループ状に見えるもの。
Hematoxyphil body:ヘマトキシリンで一様に染まる小体で、細胞核が変性・膨化して均一になったもの。
蛍光抗体法:ほとんど全てが沈着
電子顕微鏡像:上皮下、内皮下に免疫複合体が沈着し、また内皮下に均質な沈着物を認めることがある。
PAS染色ーLupusVa | Necrotizing lesion | PAS染色ーWa | PAS染色ーWireloop | Azan染色ーWireloop |
上図:Lupus腎炎V、及びW型で認められた組織像。Va症例ではnecrotizing lesionを認め、Hematoxyphil bodyを伴っていた。Wa症例では内膜下に連続するWire-loop lesionを認めた。
【臨床症状】
症状は組織型によって変化する。TやUでは腎症状は一般に軽症である。VやWでは高度蛋白尿、血尿を呈し、腎機能低下を伴うことが多い。Xではネフローゼ症候群を呈し易い。
【検査所見】
SLEとしての所見とともに以下の様な所見を認める。
尿 所 見:様々な程度の蛋白尿や血尿。沈渣にてtelescoped sedimentが特徴
血液検査:汎血球減少、血沈亢進、CRP上昇など
血清検査:各種自己抗体陽性、血清補体価の低値など
腎 機 能:正常から無尿まで様々
【診断】
SLEの診断基準を満たし、持続性の蛋白尿あるいは細胞性円柱が認められればLupus腎炎が存在すると考えてよい。前述したように多彩な組織像をとり、経過も様々なため腎生検にて組織診断を行った上で治療方針を決定するのが望ましい。また経過中に組織型の移行があるので必要があれば再度腎生検も行う。
【鑑別診断】
他の膠原病に伴う腎障害。腎症からSLEと診断される例もある。
【経過、予後】
Wが最も予後不良で、中でも増殖性病変・活動性病変の強いものは良くない。Uは治療に反応し易い。経過中無機能腎に陥る場合もあるが、3〜6ヶ月後に治療に反応して回復した例もあるので、簡単にあきらめないほうが良い。進行性を示す臨床症状として以下のようなものが挙げられる。
腎症状:高血圧、浮腫、大量の蛋白尿と尿沈渣赤血球、進行性腎機能低下
免疫学所見:抗DNA抗体高値、血清補体価低値、血清免疫複合体高値など
【治療】
基本的治療はステロイドホルモンである。
ステロイド治療:通常プレドニゾロン40〜60mgより開始するが、W型の場合パルス療法も併用する。落ち着いたら減量し、10〜15mgを維持量とすることが多い。
免 疫 抑 制 剤:ステロイドで十分な効果が得られない場合使用を考慮する。サイクロフォスファミド100mg/day前後を1〜2ヶ月使用するが、パルス療法も行われている。シクロスポリンAやミゾリピンなども用いられる。
血漿交換療法:一般的な治療法ではないが、自己抗体や免疫複合体が高値の場合行われる。DFPPが選択されることが多い。効果については賛否両論がある。
その他:抗血小板療法、抗凝固療法など原発性糸球体疾患に準じた治療を行う。