ドクターヘリは「空飛ぶ救命室」とも呼ばれる。救急専門の医師がヘリコブタ一に搭乗して現場に行き、すぐに患者の手当てを開始するからだ。交通事情の悪い現場にも到着するのが早いので、初期治療を施すのも早く、救命率が上がり、入院日数は短縮される。

 ある調査によると、事故発生から1時間以内に手術室で手術を受けていれば、死ななくてもよかった可能性があるにもかかわらず、手当てが遅れて死亡した例が後を絶たないという。 ドクターヘリは時速220キロ前後で飛ぶ。50キロならば15分ほどしかかからない。その時間短縮がいかに大きな救命効果をもたらすかを調査結果は物語る。本県にもドクターヘリによって救われる命があるはずだ。県は導入を急ぐべきである。

 ヘリコプターの基地病院をどこに置くかを検討しなければならない。「ドクターヘリは救命救急センターが中心になるべきだが、当面は熊本大学病院に配備してスタートして複数の救命救急センターが協力して運営するのはどうか」という意見が出てきた。

 ドクターヘリは2008年1月時点で13道府県14ヵ地域で実施している。本県ではすでに防災消防ヘリ「ひばり」による救急搬送の実績があるので、受け入れ病院の確保には困らないだろう。

 患者は必ずしも基地病院に搬送するとは限らない。病院はそれぞれ得意な分野がある。受け入れ病院が専門性や特徴を鮮明にして、患者にとって最も適した病院へ収容することも重要だ。

 またできるだけ発生現場から近い場所で患者を収容するよう、ドクターヘリの着陸地点を決め、消防などの関係機関に周知させる必要もある。

 防災消防ヘリには、原則として救急救命士が搭乗し人工呼吸器やAED(自動体外式除細動器)は搭載されているが、救急専門医はいない。速やかな初期治療が必要な重症患者にはドクターヘリが有利である。熊本県防災消防ヘリは2007年現場出動件数が239件(2006年は246件)で、ほぼ毎日出動する。すでに活動中に次の依頼がきて、対応ができないケースも出てきている。今後も救急件数が増えるとすれば、1機ではとうていまかないきれないという問題もある。防災消防ヘリとドクターヘリの2機配備で出動要請件数がさらに増えると見ている。 熊本県としても防災消防ヘリとドクターヘリが共生すればいいし、ドクターヘリが加われば、もっと多くの命が助かるはず。

 熊本県は新たにドクターヘリを運用する手法のコストメリットを検討する必要がある。県内の医療格差の是正や搬送時間の短縮などの観点から、新年度当初予算にはドクターヘリの機体や必要な機材、運用のための費用などを調査した上で、導入の是非を判断してもらいたい。

 ドクターヘリ特別措置法で変わることは、都道府県の医療計画の中に救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)が入ることによって、医師と看護師の搭乗した救急専用ヘリコプターが全国をカバーできるようになる。もう一つは、医師と看護師がヘリコプターで現場に飛ぶことにより、今まで病院前の救急業務として現場で救急隊員が行っていた救急処置に病院でしかできない治療もできるようになる。

 そこで、これからの救急医療体制は、これまでの市町村消防という細切れ体制から都道府県単位の広域体制へ改める必要がある。特に重症疾患(三次救急疾患)については、都道府県単位の指令センターが必要となる。この指令センターには、適切な判断をするために医師もしくは救急救命士が勤務し、救急車、ドクターカー、ドクターヘリの出動依頼を判定しなければならない。

 新法第8条では、国と都道府県がヘリコプター運航費の一部を補助することになっているが、財源不足の自治体もあるため第9条で一般から寄付を募り、助成金を交付する公益法人を設置することになっている。設置の時期は法律の公布後1年を目途とするという附則がある。この寄付金の出所は自賠責保険、労災保険、健康保険、損保協会、自動車工業会、JA共済組合、JAF等が関係してくると思われる。

 福田内閣総理大臣は施政方針演説の中で、救急医療の改革をうたい、桝添厚生労働大臣は小児救急や周産期医療の問題でドクターヘリの導入が必要であると発言している。また、政府与党の合意事項の中には、救急医療体制の拡充とドクターヘリの展開が含まれている。今こそ救急医療改革が可能な時である。市町村消防から都道府県消防へ、国民にとって最も良い救急医療体制の構築を考えることが必要である。

 ドクターヘリの法制化は、救急医療改革の糸口をつくったといえる。傷病者(国民)の立場からすると自分の病気を治して欲しいのであり、医療を中心にして医療と救急業務を一体化することが基本であると考える。救急隊員の実務実習は救急医療の現場で医師と看護師と共に行うべきであり、消防機関による救命救急センターでのワークステーションの配備と高規格救急車によるドクターカーの運行を提案したい。この救急医療と救急業務のコラボレーションをどうするかを公的に早急に検討すべきと考える。

 おわりに、救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)が国の法律によって定められたことは、救急医療体制を改革するまたとないチャンスである。傷病者(患者)の救命にとって、どのようなシステムが最良であるかを考えて対応していくことが重要である。