患者様へ

肝移植の手引き

2.生体肝移植

 小児、成人を含め、多くの疾患は保険診療となり、3割負担で、高額療養費制度の補助をうけることができます。すでに書きましたが、ほとんどの疾患で保険が効くのですが、まだ一部保険が効かない疾患がまだあります。
 問題になるのが、肝細胞がんの場合です。日本人の多くの肝細胞がんは、肝硬変をベースに生じます。肝硬変では、腹水が貯まる、黄疸がある、脳症がある、といった、肝不全と呼ばれる肝臓の働きが低下した状態で保険診療となりますが、このような肝不全兆候がない場合には保険診療となりません。肝細胞がんが医学的に肝移植対象になるのは、通常の肝切除では切り取れない状態になっている場合が多いわけですが、そのような時に、同時に肝不全兆候がないと、言い換えると、肝臓の働きはまだ大丈夫だが肝癌の治療方法が他にないから、というだけでは保険が効きません。さらに、たとえ肝不全があっても、肝癌が、ある基準以上に進行している場合にも、保険が適用されません。この基準を「ミラノ基準」といいます。

肝臓癌に対する生体肝移植の保険適応

ミラノ基準
 肝臓がんが遠隔転移(肝臓外への転移)と血管侵襲(肝臓の大きな血管に噛みこんでいくこと)を認めず、かつ、5cm以下の固まりが1個、または、複数ある場合は個数が3個以下で、最大径が3cm以下。

 肝癌に対する生体移植は、肝硬変(非代償期)に合併する場合で、上記の「ミラノ基準」にとどまるものに限られています。
 ただし、移植前に肝癌に対する治療が行われた場合でも、前の治療が行われてから3ヶ月以上が経過し、移植前1ヶ月以内のCTなどの画像診断でこの基準を満たすと確認できた場合には、健康保険が適用される

 肝癌で、生体肝移植が保険適用になる条件は、「肝不全があって、かつ、肝癌がある場合にはこれがミラノ基準を超えない範囲である」ということになります。では、ミラノ基準を超えるか越えないかは、どうやって判定されるのでしょうか。当初いろいろな混乱がありましたが、2008年から、表5のような診断手順で判定されることが決められました。よって、移植前直近1ヶ月以内のCTなどの画像診断で最終的に判断されることになります。
 なお、一般の生命保険での入院給付などは、生体肝移植ドナーでは受けられないことがほとんどです。これは、ドナーで手術をうけることが「その人の病気の治療」という概念には入らない、ということが基本になっています。ドナー保護の観点からは是正するべきことであり、骨髄移植のドナーの社会的保護などとの違いが際だちますが、現状はまだそのように厳しいものであることをご理解ください。
 保険適用の有無に関しては微妙な問題があることもあり、口頭で直接説明をうけてください。

ページの先頭へ戻る