男性ホルモン受容体は乳がんで何をしているのか?
はじめに
アンドロゲンレセプター(以下AR)は、男性ホルモンを受け取る受容体ですが、乳がん組織でもその発現が認められます。近年、ARの発現が乳がんの性質を決定すること、またAR自体が治療標的として重要な意義があるとして注目を集めてきています。一方、ARの機能を調整する翻訳後修飾の研究が前立腺癌で進んでおり、その重要なものとしてARのリン酸化があります。しかし、ARのリン酸化が乳がんにおいてどのような意味をもつのかわかっていませんでした。AR及びARのリン酸化が乳がんの診療で重要な意味を持つのではないかと考えて、調査・検討しました。
対象と方法
2001~2009年の間、当院で初期治療を行った女性原発乳がん患者様379名を対象とさせて頂きました。手術や検査で摘出し診断に使った余りの乳癌組織(治療前)を切り出し、抗AR抗体、及び抗ARリン酸化抗体で免疫染色を行いました。
結果
ARを発現している症例は、エストロゲン受容体(以下ER)陽性およびがんの性質がおとなしいことを示す因子と相関が認められました。ARがリン酸化されている症例もホルモン受容体陽性およびがんの性質がおとなしいことを示す因子と相関が認められました。
AR陽性症例は、ARを発現していない症例と比較して、再発しにくい傾向がありました。また、ER陰性症例でも、同様の傾向があることがわかりました。ARリン酸化陽性症例は、リン酸化陰性症例と比較して、再発しにくい傾向がありました。
医学上の貢献
ARおよびARリン酸化の発現を調べることが、乳がん患者様の臨床経過の予測につながり、治療を行う上でも有用になる可能性を見出しました。また現在施行されているER陰性乳がんに対する抗AR療法の臨床試験の動向を見守りながら患者様によりよい医療を提供できるように研究を継続していく予定です。