乳癌におけるHERファミリー遺伝子と乳癌の臨床学的意義
はじめに
乳癌の中の一部には細胞表面にHER2という受容体タンパクをもつタイプがあります。過去になされた多くの研究によって、HER2タンパクを多くもつ乳癌は癌の進行が早いことやHER2タンパクの機能を抑える薬剤が治療に効果的であること等が分かりました。しかしHER2と似た受容体タンパクであるHER1,HER3,HER4（4つ合わせてHERファミリーと呼ぶ）に関しては、乳癌でどのような意味をもつのか詳細が分かっていませんでした。HER1,HER3,HER4も乳癌の診療で重要な意味をもつのではないかと考えて、研究を行いました。
対象
本研究は、2001年～2009年の期間に当科にて初期治療を行った遠隔転移のない女性乳癌患者様250名を対象とさせて頂きました。
研究内容及び結果
手術や検査で摘出し診断に使った余りの乳癌組織（治療前）からDNAとRNAを取り出し、HER ファミリー遺伝子のDNAやRNAの量を測定しました。臨床データ等と合わせて解析したところ、特にHER4のmRNA（メッセンジャーRNA:タンパク合成情報をもったRNA）の量が多い例は再発が遅く、生存期間が長いことが分かりました。またHER4 mRNAの量はいくつかある乳癌タイプの中でもエストロゲン受容体（ER）を多くもつ乳癌のタイプで多い傾向にありました。
HER4mRNAの量が多い傾向があったERをもつ乳癌には、エストロゲンを抑える内分泌療法が効果的で広く使用されています。HER4タンパクには構造や細胞内の動きが異なる複数のタイプがあることが報告されていることから、HER4タンパクの種類とERをもつ乳癌症例の臨床経過に関係があるのかも解析しました。今回の解析結果、HER4の特定の種類のタンパクの量と、内分泌療法を行ったERをもつ乳癌患者さんが再発するまでの期間に関連がある可能性が分かりました。
医学上の貢献
HER4遺伝子やHER4タンパクの状態を調べることが、ERをもつ乳癌の治療においてその臨床経過を予測につながり、治療を行う上でも有用になる可能性が見つかりました。
乳腺・内分泌外科