熊本大学大学院生命科学研究部 乳腺・内分泌外科 講座 患者さま・一般の皆様へ 医療者・医学生の皆様へ

患者さま・一般の皆様へ

教授あいさつ ~患者様・一般の皆様へ~


「私たちにできること」

山本豊

乳がんかもしれない、あるいは、乳がんになったとき、患者さんは沢山の疑問やこれからの心配事で不安に押しつぶされそうになられているのではないかと思います。乳がんの進み具合や治療法、治療に伴う副作用(体や心への影響)、家族への影響、経済的な問題(費用やどの程度仕事を休むかなど)、社会への影響(仕事や地域での活動など)、再発への不安など心配事を並べると数限りありません。不安を解消する方法の一つは正しい知識や情報を得て、それを理解することであり、特に、その正しい知識や情報を消化できる速度に合わせて理解していくことが大切です。私たちはそのお手伝いをできるよう努めております。

乳がんの診断・治療の進歩は日進月歩であり、非常に複雑になってきました。これに伴い乳がんの標準治療も高度で多様性に富むものになってきました。標準治療は平均的な治療という意味ではなく、現在できる最善の治療のことをいいます。このため、標準治療は日々進歩しています。当院は高度な専門性を持った病院ですので、ほぼすべての標準治療(一部の放射線治療を除く)を患者さんに提供することができます。

しかしながら、単に標準治療を行うだけでは患者さんの心配や不安を取り除くことができないと考えています。また、本来の治療効果が十分に得られない可能性もあります。そこで、当院では、医師のみではなく様々な医療職(看護師、薬剤師、場合によっては栄養士、臨床心理士、ソーシャルワーカーなど)がチームとなって患者さんとその家族に対応できる体制をとっております。また、総合病院の強みを生かし多くの他の診療科(内科、形成外科、など)との協力体制も整えており、薬物療法の副作用対策も充実しています。

治療法を決定するときは、一方的に治療法を提示するのみではなく、患者さんの希望や価値観を尊重し、患者さんー医療者間で情報を共有し、話し合いを重ねて、個々の患者さんにとって最良の治療法を決定していく過程をとります(この過程をShared decision making:SDM、協働意思決定といいます)。

乳がんの治療を進めていくうえで、その時々でたくさんの決定していかなければならない事項がでてきます。それらに対して上述のSDMの方法を使って、患者さんに十分に治療内容を理解していただいた上で、患者さんとともに、治療を決定し進めていきます。例えば、乳がんに対する手術を行う場合、①乳房は全部取るか(乳房全摘)、一部とるか(部分切除)、②腋窩(わきのリンパ節)は全部とるか(郭清)、一部とるか(センチネルリンパ節生検)③センチネルリンパ節に転移があった場合は、郭清するか、放射線治療を追加するか、④乳房全摘術の場合は、乳房再建術を行うか、行わないか など、多数の選択肢があります。これらについて利点と欠点について説明し、患者さんの希望や生活環境などを考慮し、治療法を決めていきます。

私たちの目標は乳がんで亡くなる方をなくすことと乳がんで苦しむ患者さんを一人でも減らすことです。皆様のお力になれれば幸甚です。

令和6年6月25日
熊本大学病院 教授 山本 豊

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