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- 教授挨拶
はじめに
このたび、平成27年1月1日付けで熊本大学大学院生命科学研究部歯科口腔外科学分野の教授ならびに熊本大学病院 (現熊本大学病院)歯科口腔外科の診療科長に就任いたしました。歴史と伝統のある熊本大学の当教室におきまして、初代の田縁昭名誉教授、 二代目の篠原正徳名誉教授に続く三代目の教授になりましたことを大変光栄に感じております。私は熊本県で生まれ育ち、地元の高校を経て、 九州大学歯学部を卒業しました。その後、九州大学の口腔外科に在籍して口腔外科の診療と研究の基礎を学びました。研究面においては、 九州大学の大学院にて口腔癌に対する基礎的研究を行い、博士号を取得しました。九州大学在籍時には、福岡県飯塚市にある麻生飯塚病院の 歯科口腔外科に勤務し、様々な臨床経験を積みました。平成16年4月に熊本大学に赴任し、前任の篠原正徳先生のもとで臨床・研究・教育を中心 に色々な仕事に取り組んできました。私はこれまで九州大学と熊本大学において多様な症例に数多く取り組んできた経験と実績を活かし、現在、 様々な口腔外科疾患を有する患者さんに対して、幅広くまんべんなく手術やその他の治療を行っています。一方、当科では口腔がんの入院患者数が多く、 自らの専門領域が口腔がん治療であることから、私自身は口腔がんに対する手術を最も多く行っています。
社会の知的基盤をなす大学病院に求められる役割として、診療・研究・教育の3本柱が挙げられますが、いずれも極めて重要であり、 切り離して考えることはできません。本院は県下唯一の特定機能病院であり、当科は熊本県における歯科口腔外科診療の最後の砦です。 私達は常にそのことを念頭に置きながら患者さんに質の高い医療を提供できるように日々の診療に取り組んでいます。そのため、 総勢40名を超える当科の医局員は、現状に満足せずに臨床力の更なる向上を目指して学会や研修会に積極的に参加し、最新の知識と 技術を習得するように努めています。以下に、診療・研究・教育に関する当教室の現状と私の考えについて述べます。
診療について
外傷、顎変形症、顎骨の良性腫瘍や囊胞、唾液腺疾患、顎関節疾患、口腔粘膜疾患、口腔悪性腫瘍などに対する外科的治療を中心として、あらゆる口腔外科疾患に対して幅広く治療を行っています。特に、口腔悪性腫瘍の新患数は年間約120名にのぼります。そのため、口腔癌の切除・再建術の手術症例数が多く、近年では口腔癌術後のインプラント治療や3Dプリンターを応用した治療を積極的に行っています。
質の高い医療を実践していく一方で、安全面を考慮することは極めて重要です。高齢化社会の進行に伴い、様々な全身疾患に配慮した治療が重要となってきました。そこで当科では、多くのドクターに麻酔科研修やICU研修を経験してもらい、そこで得た知識と経験を多くの医局員で共有し、安全性を向上させるように努めています。また、様々な医科の診療科との連携を重視して診療に当っています。
研究について
当教室では、“口腔癌の治療上の問題点に対峙し、その問題の背景にあるメカニズムを基礎医学的見地から解明・理解し、治療に応用する”という立場で研究を展開しています。研究のメインテーマは、“口腔癌の治療抵抗性のメカニズムを解明し克服すること”です。具体的には、癌の悪性度に直結し口腔癌患者の治療成績を低下させる『放射線耐性』、『抗癌剤耐性』、および『転移』のメカニズムを解明し、それらを克服するための研究を行っています。研究の中心をなす大学院生は、基礎医学の研究室で研究を行う(出向)大学院生と当研究室で研究を行う(内部)大学院生がおり、総勢10名以上となります。大学院生を含む多くの研究者が互いに切磋琢磨し合い、良好な雰囲気のもとに研究を進めています。
口腔癌患者に対する免疫療法(ペプチドワクチン療法)は、全国的にみても他の施設ではほとんど行われておらず、当教室のもう一つの研究の柱と位置付けています。上記の研究内容の成果については、英文の学術専門誌を中心に論文報告をしています。現在、『口腔内環境と全身疾患』や『薬物関連顎骨壊死』、『全身・栄養状態と口腔がんの治療効果』に関する研究など、新たな研究テーマにも取り組んでいるところです。
教育について
臨床力や研究力を生み出す原動力は“人(ひと)”であり、人に大きな影響を及ぼす“教育”こそが医局の財産となる人材を育むと確信しています。大学に勤務する社会人としての考え方、医学的知識、医療技術、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、発信力など全てが教育によって左右されます。熊本大学歯科口腔外科では、“教育”を最重要事項と位置付けた上で医局運営を行っています。
教室内で行っているオフィシャルなカンファレンス・勉強会は、主に早朝7:30から行い、特に、若手医師が気軽に質問できるように心掛けています。オフィシャルのカンファレンスや勉強会を早朝に行う理由は、教室員が夕方以後の時間を自由に研究、論文作成、あるいは独自の勉強会などに利用し、限られた時間を有意義に活用するためです。一方、1-2か月に1度、水曜日の夜に臨床教授の中村社綱先生をお招きして口腔がん術後のインプラントカンファレンスを行っています。
今後、当教室より多くの口腔外科認定医・専門医・指導医を輩出し、熊本県における口腔外科のリーダーならびに将来の口腔外科を担う大学人を育成してゆきたいと考えています。