ドイツ・ヴュルツブルグ大学病院・口腔顎顔面外科 (永田将士先生)

 私は2018年4月17日に日本を出国し、ドイツのヴュルツブルグにて留学生活を始めました。目的はドイツの口腔外科手術を学ぶことと、人間活動。ヴュルツブルグはドイツのほぼ真ん中に位置し、1300年の歴史がある古都です。見渡す限りのブドウ畑に囲まれ、世界遺産もある人気の観光地です。シーボルトの出身地であり、レントゲン博士がX線を発見した場所でもあります。

 私が所属したMund-, Kiefer- und Plastische Gesichtschirurgie(口腔顎顔面外科)は1講座ですが、主に外来小手術およびインプラントを行う口腔外科部門と、全身麻酔下で手術を行う顎顔面外科部門に分かれております。ドイツでは顎外科を行うには医師および歯科医師の免許が必要です。対象症例は幅広く、悪性腫瘍(口腔癌および顔面の皮膚癌)、口唇口蓋裂、先天奇形、顎変形症、外傷、嚢胞や良性腫瘍、膿瘍や炎症など多岐にわたります。再建手術もすべて自分たちで行い、顕微鏡手術も毎週行っておりました。

 勤務は平日が金曜日の午前中までで、午後および土日は休みです。おおよそ17時までには外来も手術も終わりますが、難しい手術は日をまたぐこともありました。基本的には日本より勤務時間は短いのですが、毎日4-6件の全身麻酔手術が行われ、症例数の多さには本当に驚きました。手技もさることながら徹底した合理化とチーム医療システムがなせる技であり、見習うべき点を多く見つけました。このコロナ禍でも、大学病院は即座に通常の外来は急患対応のみにすることで、医師とベッドを確保し、他の欧米諸国と比較し、治療の遅延を防ぐことが出来ています。ドイツ医療の質の高さがうかがえます。

 生活費としては寮のおかげで家賃は3万円弱(電気・水道は使い放題)ですみました。寮といってもちゃんと個室で家具付きですし、共用のキッチンもあります。単身であれば月12-3万で生活可能で、ビールが大瓶で1€、ワインも1本4-5€と最高の環境でした。

 一般的に真面目なイメージのドイツ人ですが、実は本当に人に明るくとても気さくな人たちです。手術室ではいつも和やかな雰囲気で手術が行われています。金曜と土曜にしっかり遊び日曜日は休みます(ほとんどの店が閉まります)。毎週のように何かしらのお祭りがあり、医局行事も多く、カヌーで川下りやサッカー大会、病院内で季節ごとのパーティ、冬にはスキーツアーでアルプスに行きました。自然に囲まれ、スマホの画面を見ている人はほとんどいません。友人や家族と絶えず楽しそうにおしゃべりをしています。

 留学は口腔外科領域の知識や経験を得ただけでなく、本当にたくさんの価値観の変化を与えてくれました。世界はそんなに遠くはありません。行かなければ理解できないことがたくさんあります。長い人生の内、世界を知るために自分の時間を使うことは、思っている以上に大きな価値があると思います。

「たちまちこのヨオロツパの新大都の中央に立てり。なんらの光彩ぞ、我が目を射むとするは」 −森鴎外 「舞姫」より−
鴎外は1884年から4年間、陸軍軍医としてドイツ留学しています。彼が帰国して130年以上が経ち、ドイツは、日本は、世界はどのように変化しているか、体感してみてはいかがでしょうか?

  • 手術室でポーズを取る教授 手術室でポーズを取る教授
  • お世話になった女性ドクターと お世話になった女性ドクターと
  • ヴュルツブルグの風景 ヴュルツブルグの風景
  • カヌーで川下り カヌーで川下り
  • 陽気な同僚たちと 陽気な同僚たちと
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