糸球体腎炎と言われたんだけど?
当科からの回答
腎臓で尿の原料である原尿を血液から搾り出す特殊な構造の部分があります。その形から糸球体と言われている部分で、非常に複雑な血管の網を形成しています。ここの部分に病変が生じたものを糸球体腎炎と言い、血尿や蛋白尿を伴っていることが多い病気です。この病気にはいくつかの異なった種類の病変がありますが、その原因はまだわかっておらず、診断や治療に専門的な知識が必要になります。
他の病気から二次的に糸球体が障害されることも多いのですが、腎臓が病気の主体で他の疾患が認められない糸球体疾患を原発性糸球体疾患と言い、大きく7つに分類されています。
1. 急性糸球体腎炎:風邪をひいた後3週間くらい経ってから、血尿、乏尿、高血圧、浮腫などの症状を示す糸球体腎炎で、子供に多い病気です。安静や保温、血圧コントロール、利尿薬の投与などでたいていの場合数週間で改善傾向が見られ、3〜6ヶ月でほとんど治癒してしまいます。大人の場合、慢性化して腎不全になる人もいます。子供の頃、腎臓が悪くて入院していたが、今は全く正常だと言われる方がたまにいますが、たいていこの病気と思います。
2. 急速進行性糸球体腎炎:数週間から数ヶ月で末期腎不全に移行してしまう怖い病気です。たいていの場合、高度の血尿や蛋白尿を生じ、数週で血清クレアチニンが上昇してきます。早期に見つけてすぐに強力な治療を行わないと、一生血液透析をしなければいけないようになってしまいます。肉眼的血尿が見られた場合は要注意ですが、最終的には腎臓の一部を採って顕微鏡で調べる腎生検という検査を受ける必要があります。
3. 微小変化群:1〜2週間という短期間のうちに大量の尿蛋白の出現、血清蛋白質濃度の低下、尿量減少と体重増加、下肢から全身に広がるむくみなどを引き起こす病気です。腎臓の組織を調べても殆ど異常がなく、電子顕微鏡で調べるとわずかな異常が認められるだけです。この病気は子供〜青年期に多く発生しますが、高齢者でもたまに発生します。治療にはステロイドホルモンが用いられ、1〜2週間で尿蛋白は消失し、体重も元に戻ります。ただステロイドホルモン剤の減量を注意深く行わないと再燃してしまい、非常に厄介な状態になりますので、指示された薬剤はきちんと服用してください。
4. 巣状糸球体硬化症:20〜40歳代で蛋白尿を主体とした検尿異常で発症することが多い病気です。蛋白尿の程度は比較的多量で、下肢のむくみや軽度の体重増加を来すことが多いようです。腎臓の糸球体がポツリポツリと障害されて硬くなっていく病気で、10〜20年で末期腎不全になって血液透析を必要とするようになります。ステロイドホルモン薬やコレステロールを下げる薬を用いますが、薬の効果が悪く、治療には根気が必要です。
5. 膜性増殖性糸球体腎炎:若年〜中年期に高度血尿、蛋白尿を主体に発症する糸球体腎炎で、腎機能も徐々に低下することが多い病気です。血液検査で補体価が低下することが多く、腎生検と共に診断の手助けになります。治療にステロイドホルモン剤を使うことが多いのですが、巣状糸球体硬化症と同様、薬の効果が悪く、最終的には血液透析を余儀なくされることが多いようです。
6. 膜性腎症:比較的高齢の方に発症する、蛋白尿を主体にした糸球体腎炎です。3ヶ月とか半年という経過で蛋白尿や下肢のむくみなどを生じ、病院を受診することが多いようです。血尿は10%程度の患者さんで認めますが、血尿が強い場合には尿路系の悪性腫瘍の鑑別が必要です。治療にはステロイドホルモン剤を用いますが、早期に発見された場合に良く効くようです。まれに何らかの悪性疾患や抗リウマチ薬、感染症などで生じる場合もありますので、それらの疾患の検査も必要です。治療を開始して1ヶ月くらいで薬の効果が現れ、約半年で蛋白尿も(1+)程度までに改善することが多いようです。
7. IgA腎症:日本における原発性慢性糸球体腎炎の中で最も高頻度に認められる疾患です。20〜40歳で発症する事が多く、大部分は血尿を主体にした検尿異常で発見されるようです。糸球体にIgAという免疫グロブリンが沈着するのが特徴です。以前には腎機能はあまり低下しないと言われていましたが、最近の話では患者さんの3割前後の人が透析を必要とするようになるようで、決して侮ってはいけない病気です。診断のためには腎臓の組織の一部を採って顕微鏡で観察する腎生検が必要です。治療としては抗血小板薬を用いますが、患者さんによってはステロイド治療や他の治療も考慮されますので主治医に相談してください。
以上のような原発性糸球体疾患のほかにも、糖尿病、全身性エリテマトーデス、紫斑病、アミロイドーシス、血管炎など様々な疾患で糸球体や腎臓に障害を生じます。詳しくは最寄の医療機関で相談してください。様々な民間療法があるようですが、科学的に効果が証明されるものは全くありませんので、変な話は信用せずに主治医と相談してください。
もっと詳しく知りたい方は当科外来にお越しいただくか、近所の医療機関でご相談ください。