研究内容
網膜視神経の保護・再生を目指して
緑内障と現在の治療の限界、将来へのステップ
緑内障は現在の本邦における中途失明原因の第一位の疾患であり、国内における有病率は5%を超え約500万人もの潜在患者数が推定されており、計り知れない社会的・経済的損失を招いています。緑内障は多彩な病型からなる疾患群ではありますが、いずれの病型においてもエビデンスが確立されている唯一の治療法は、眼圧下降治療のみです。しかしながら、十分な眼圧管理が得られているにも関わらず視野障害が進行する症例を少なからず経験し、眼圧非依存の緑内障病態の存在が示唆されています。そのため、眼圧下降に依らない神経保護あるいは神経再生といった新しい治療戦略が求められています。
網膜視神経の保護・再生を目指して
ヒトを含む高度な哺乳動物の成熟した中枢神経細胞では、外部からの負荷に大変脆弱で、軸索障害を一旦受けると神経突起再生が生じません。このことは、緑内障や外傷性視神経症をはじめとする眼疾患のみならず、脊髄損傷などの広範囲の神経疾患で改善がみられないことと直結しており、神経変性疾患治療に深く影を落としています。
障害をうけた神経軸索は何故再生しないのでしょうか?多くの神経科学者がこの難問に挑み、近年さまざまな分子機序が明らかにされ始めてきています。私たちの研究グループおよび国際共同研究グループでは、特に神経内の遺伝子発現の変化やシグナル機序の変化に着目し、1代表的な感覚神経ニューロンである網膜神経節細胞への遺伝子導入や薬剤投与を利用して、神経軸索が再生しやすい細胞内外の環境を明らかにするべく研究を進めています。
また、緑内障をはじめとする眼神経疾患や網膜色素変性症などの網膜神経変性疾患に対し、神経保護効果を期待できる薬剤の探索を行なっています。2-4現在、我々が神経保護作用を示すことをあたらしく発見したリーディングドラッグについて製剤化を目指し、疾患モデル動物を用いた実験が進行中です。さらに今後は、大規模な薬剤スクリーニングを企画しており、次世代の新薬開発を目指しています。
- Moore DL, Blackmore MG, Hu Y, Kaestner KH, Bixby JL, Lemmon VP, Goldberg JL. KLF family members regulate intrinsic axon regeneration ability. Science 326:298-301. 2009.
- Hayashi H, Eguchi Y, Fukuchi-Nakaishi Y, Takeya M, Nakagata N, Tanaka K, Vance JE, Tanihara H. A potential neuroprotective role of apolipoprotein E-containing lipoproteins through low density lipoprotein receptor-related protein 1 in normal tension glaucoma. J Biol Chem 287:25395-25406. 2012.
- Inomata Y, Nakamura H, Tanito M, Teratani A, Kawaji T, Kondo N, Yodoi J, Tanihara H. Thioredoxin inhibits NMDA-induced neurotoxicity in the rat retina. J Neurochem 98:372-385. 2006.
- Inomata Y, Hirata A, Koga T, Kimura A, Singh DP, Shinohara T, Tanihara H. Lens epithelium-derived growth factor: neuroprotection on rat retinal damage induced by N-methyl-D-aspartate. Brain Res 991:163-170. 2003.
