研修だより

「初期臨床研修を振り返って」

熊本大学病院初期臨床研修医 Cプログラム
小泉 大海

 大変だった医師国家試験を何とか合格し、令和2年4月から私の医師人生がスタートしました。1年目はたすき掛けで熊本地域医療センターでの研修でした。熊本地域医療センターは熊本大学病院のすぐ近くにあり、24時間の小児救急に対応するなどの特色のある、熊本市医師会が開設した病院です。

 期待と不安が入り混じった気持ちの中、循環器内科から1年目の研修が始まりました。慢性心不全などの患者さんを担当し、何もわからないながらも毎日患者さんと話しをし、日々の状態をチェックしながら診察したことをカルテに記載していました。そんな中、研修が始まって1ヶ月ほどしか経たない頃に、折しの新型コロナウイルスの影響のため、熊本地域医療センターでも患者さん受け入れの一時停止などの診療制限がなされることになりました。令和2年2月に熊本でも初めて感染者が確認され、自分の身の回りでも新型コロナウイルスの影が徐々にちらつき始めていた時期でしたが、このときに、いよいよこの世界的なパンデミックの中に飛び込んでいくのだなという、覚悟のようなものを感じたのを覚えています。しかしながら、この時はまさに右も左も分からない1年目であり、呼吸器内科の先生方を始めとして、この新しい感染症に対応されているのを、邪魔にならないように遠巻きに見ていることしかできませんでした。早く一人前になって少しでも戦力になれれば、と悔しい思いを募らせていた1年目の春でした。とはいえ、まずは一つ一つ基本的な手技や知識を身につけることが初期研修の目的であるため、先輩の先生方や看護師さん、薬剤師さん、クラークさん達に、物品の使い方からルートの取り方、カルテの書き方、オーダーの出し方、紹介状の書き方などを教えてもらいながら、日々研修生活を送っていました。

 熊本地域医療センターでは、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科と、始めに内科で半年間研修を行いました。内科では患者さんとの接し方や診察、検査、治療などの診療の流れを学び、初めの頃はたどたどしかった患者さんとの会話も次第にスムーズになっていき、ポケットに忍ばせた医学書を見ながらも、次に何の検査をするのか、薬は何を出すのかなどを覚えていきました。また、どの診療科でもカンファレンスの際には担当患者さんについてプレゼンをしますが、最初の頃は緊張や話が冗長になるなどして上手く話せませんでした。そのため、指導医や他の先生方が話しているのを聞いてそれを真似したり、要点をコンパクトに話すように心がけたりしました。

 内科の次は外科で2ヶ月半研修を行いました。外科では主に消化器系の手術に入らせていただき、腹腔鏡手術の際にはカメラを持ったり、閉創の際に縫合させてもらったりしました。空いた時間ではドライラボで鉗子や持針器を使って腹腔鏡手術の練習をしたりもしました。外科でも学んだことはたくさんあるのですが、一つ挙げるとするならば、準備の重要性です。長時間の手術が連日あったとしても、次の日の手術のために先生方は夜遅く、または朝早くに、撮影した画像などを見返したり、術野の絵を描くなどして手術に備えておられました。使う物品をきちんと揃えたり、手順を頭の中でイメージしておくなど、事前の準備をすることで、手術に限らずどのようなちょっとした手技であっても、安全に上手くできるということを学びました。

 その後も熊本地域医療センターでは救急、麻酔科、小児科、緩和ケア科で研修を行いました。救急では、普段の病棟での診療とは違ってその場での対応の早さが求められ、始めのうちはあたふたしてばかりいました。どのような疾患の患者さんが来るのかわからないため、腹痛の患者さんが来たら何の検査をするのか、胸痛の患者さんが来たら何を聞くのか、などなど、ドキドキしながら頭の中でイメトレを繰り返していたのを覚えています。しかしながら、そのような救急での経験のおかげで、普段の診療においても咄嗟の判断力が養われたように思います。

 1年目の研修を終えて、熊本地域医療センターはとてもアットホームな病院だと感じました。他科の先生方にも色々と相談しやすく、また看護師さんや薬剤師さん、技師さんも分からないことがあれば忙しい時でも丁寧に教えて下さいました。

 2年目は大学病院での研修でした。熊大病院は学生時代のポリクリ、クリクラの実習で割と慣れているつもりでしたが、実際に医師として立つ大学病院の病棟は学生の時とは随分と違いました。学ぶことが主な目的という点では、学生も研修医も大差はないのですが、検査や薬のオーダー、ルートの確保、薬剤の投与などの実務の一端を任され、また、他のコメディカルの方々に指示を出したり、他科の先生にコンサルしたりと、学生ではなく職員として大学病院で働くことに初めは少し変な感じがしました。

 大学病院での研修は4月の神経精神科からスタートし、5月産婦人科、6月7月小児科、8月地域医療、と研修を行いました。地域医療研修では山都町にあるそよう病院で1ヶ月間お世話になりました。山都町は熊本県内の市町村で3番目に広い面積を持つ、宮崎県に接する山あいの町です。そよう病院は山都町の基幹病院として、3つの診療所や訪問介護ステーションなどの施設と協力しながら、そのような広い地域に住む方々に対して医療を提供されていました。そよう病院には阿蘇の方面からや、宮崎県からも患者さんが訪れ、夜間の救急にも対応されていました。研修では入院患者さんの担当や週1回の当直、また外来も少し担当しました。これまで外来の患者さんを診る機会があまりなかったため、とても良い経験となりました。また病院の敷地内にある宿舎は綺麗で広くとても快適でした。しかしながら、この時は新型コロナウイルスの第5波の頃で、やはりここでも先生方が対応に追われているのを目の当たりにし、都市部だけでなくこのような山間部にも新型コロナウイルスが広がっていることを実感せざるをえませんでした。

 9月からは消化器内科で2ヶ月間研修を行いました。消化器内科では上部消化管内視鏡検査や腹部超音波検査などの手技をたくさんすることができました。この頃はそろそろ入局先を決めなければならない時期であり、色々と悩みましたが、先輩方から話を聞いたり医局の雰囲気などを体験して、最終的に消化器内科に入局することに決めました。その後は呼吸器内科、神経内科、救急部で研修させてもらいました。

 以上、簡単ですが熊本大学病院での2年間の研修を振り返らせてもらいました。現在、研修医を受け入れている施設は大学病院の他にもたくさんあり、それぞれ特徴があってどこに行こうかと悩んでいる学生さんも多いと思います。私が熊本大学病院を選んで良かったと思う理由として、診療科と医師の数が多い点があります。2年間の研修の中で将来希望する診療科が変わったり、気になる診療科が出てきたりすると思います。そのような時に、たくさんいらっしゃる先輩の先生方から話を聞くことができ、また、研修する診療科の変更については柔軟に対応してもらえるので、気になる診療科で研修をして、医局の雰囲気やどのような仕事をしているのかを実際に体験することができます。私は入局先を決定する際にそのような点が非常に参考となりました。今後も熊本大学病院で研修医の先生達と一緒に仕事をすることを楽しみにしております。

 最後に、これから3年目の医師として今まで以上に責任を持って診療に当たらねばと改めて感じています。この2年間指導して頂きましたたくさんの先生方に感謝すると同時に、患者さんやその家族の方々に信頼される医師を目指して引き続き努力していこうと思います。ありがとうございました。