熊本大学病院初期臨床研修医 Cプログラム
眞名子 瞳
はじめに、この2年間未熟な私をご指導くださった皆様に感謝申し上げます。皆様のおかげで実り多い初期研修となりました。熊本大学病院の初期臨床研修プログラムを選択して本当に良かったと感じています。
私は熊本大学を卒業後、初期研修1年目を熊本労災病院で、2年目を熊本大学病院、与論徳洲会病院で研修させて頂きました。振り返ればコロナ禍真っ只中でスタートした研修生活でした。未知の感染症に対し日々臨機応変に対応を迫られる医療現場の中で、学びながらも医師としての責務を果たすことが求められました。特に1年目で経験した救急外来では目の前の患者がコロナウイルス感染症に罹患しているのではないかと想定し、自分、周囲のスタッフ、他患者に感染させないように対応することが必要とされました。様々な主訴で苦しむ患者を診察し、鑑別、対処等を考えながら同時に感染対策にも気を配らなければならず、勤務を終える頃には疲れきってしまうことも少なくありませんでした。そんな緊張感漂う現場でしたが、熊本労災病院の上級医、スタッフの方々は温かく私達初期研修医を見守りサポートしてくださいました。初めての外来、病棟業務、基本的手技に取り組み、なかなか上手くいきませんでしたが何度もチャンスをくださり、辛抱強くご指導くださいました。何より患者さんがとても協力的で、未熟な私に任せてくださることに有り難さを感じ、信頼を裏切ってはいけないと強く思いました。そのような研修が3か月ほど経過し少し慣れてきた頃に令和2年7月豪雨災害を経験しました。熊本労災病院は災害拠点病院でもあり、全国からDMATが集いました。災害時の医療者のあるべき姿を目の当たりにし、覚悟を新たにすることができました。また、熊本労災病院では研修医が互いに経験した症例を発表し、改めて学びを深め、その後皆でカレーを食べる会、通称「カレーの会」がありました。切磋琢磨しながらも居心地のよい研修環境でした。診療科の垣根がなく、研修医に気さくに声をかけてくださる先生方のおかげで日々の疑問や悩みをすぐに相談することができました。患者を病院全体で診る姿勢は患者だけではなくそこで働くスタッフにとっても安心できる雰囲気をもたらしていました。1年間はあっという間に過ぎてしまい、熊本労災病院を離れる際はとても寂しく感じました。
2年目の熊本大学病院での研修では、市中病院ではなかなか経験できない分野の研修をさせて頂きました。緩和ケアセンター、リハビリテーション科を研修することで、様々な医療の形を学ぶことができました。緩和ケアセンターでは、疼痛や不眠、気持ちの辛さに対するアプローチはもちろん、患者本人による意思決定がなかなか難しいケースでの意思決定支援といった形で関わらせて頂くことも経験しました。私自身も緩和ケアチームの一員として意見を求められることがあり、考えさせられる場面が多々ありました。一人一人異なる価値観をいかに尊重し、患者本人だけでなく患者家族や主治科の医療者をも支援していけるかを検討し、チームとして実践していく様子にそのプロフェッショナリズムを感じとることができました。また、院内外で患者を支援する各専門スタッフの多さを改めて思い知らされました。リハビリテーション科では、「家に帰るまでにはリハビリが必要なので頑張りましょうね」と上級医が患者によく言っていた、そのリハビリは実際どのように行われているのかをじっくり見ることができました。様々な症例を診察させて頂き、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・義肢装具士の先生方の業務を実際に見学させて頂きました。振戦により日常生活、仕事に支障をきたしている患者さんに対し装具作成を行い振戦を軽減できた事例を経験しました。一人一人の患者さんの様々な生活に着目し、より過ごしやすくなるようなアプローチを提案し、患者本人と共に工夫を重ねながら実践していく過程に感動することが多々ありました。また、大学病院の総合診療科を研修し、大学病院では貴重な外来研修を経験できました。近医で診断に苦慮した症例や、他診療科では患者本人の満足のいく対応が困難な症例を診させて頂きました。改めて丁寧に病歴や主訴以外の症状、既往歴等はもちろん生活背景まで聴取し、頭から足先までくまなく診察することで診断に繋がったり、患者の苦痛を少しずつ軽減できたりするのを目の当たりにしました。どうしても「病気」に目が行ってしまいがちですが、あくまでも「人」を診る姿勢がより良い医療に繋がると実感しました。これらの診療科を研修したおかげで、今後困った事例が生じた際に、院内には様々なアイディアを提案できる方が数多くいらっしゃることを意識できました。自分だけで悩むよりも誰かに相談することで、新たな視点で問題を捉え直すことが可能になったり、患者の利益につながったりするのを知っておくことは今後の医師生活でとても重要だと感じました。
地域医療研修は与論徳洲会病院で行わせて頂きました。島唯一の入院可能な医療機関であり、かかりつけ医としての役割はもちろん、急性期病院として脳卒中や外傷患者への初期対応が求められました。様々な地域から集った同期の2年目初期研修医4名で約40床の急性期病棟主治医を勤めたり、一般外来や訪問診療を行ったり、1人で当直業務を行ったりといった貴重な体験をさせて頂きました。与論での研修で最も印象深い方がいます。悪性腫瘍の化学療法中、CVポートから抗がん剤が漏れ、胸部に難治性の壊死が生じてしまい、ポート抜去後、デブリードマンを数回施行された方でした。化学療法は当然中止となり、毎日創部洗浄、処置を行い回復を待つという方針で、以前の担当医から引き継ぎ私が主治医となりました。洗浄、処置の際には苦痛が強く、創部の範囲も広く上肢の可動域制限もきたしていました。当然医療に対する不信感も強く、「病院に勧められた治療を受けたのに、病気は治らないし、何故ずっと入院する羽目になってるんだ」「何故自分ばかりこんな思いをしなきゃいけないんだ」といった発言がありました。毎日処置をしながら傾聴することしかできませんでした。「この傷が治ったら、何がなんでも退院する。家に帰りたい。もう癌の治療は一切しないつもりだ。」という発言には、わかりました、そのように次の担当医にも申し伝えますとしか返事が出来なかったことを覚えています。月に数回応援で来て下さる皮膚科、形成外科の医師が共診してくださり、嬉しいことに創部は少しずつ改善傾向を認めました。しかし、完全な回復にはまだまだ時間が必要と考えられました。研修最終日、いつものように処置を行った後に、その方から次のような言葉をかけられました。「毎日愚痴ばかり言ってすまなかった。いい気持ちがしないだろうに、処置をしてくれてありがとう。こんな患者のことは忘れて、与論島の美しさだけ覚えていて欲しい。病院ばかりにいちゃダメだよ。絶対に島の風景をみて帰りなさい。」私がもし相手の立場だったらこのような言葉をかけられるだろうか、主治医として何かもっと出来ることはあったのではないか、そんなことを今でも考えさせられます。与論島は海も緑もとても美しくいつか再び訪れたい場所です。
いずれの研修施設においても、日々変化する感染状況に柔軟に対応し、その中でベストな医療を提供する病院職員の姿を近くで見てきました。患者だけではなく一般の方へのコロナワクチン接種業務に携わることも経験できました。医療従事者の一員として自分自身に出来ることは何か考え、実践する姿勢を求められた2年間は、今後の医師生活の大きな糧となると確信しています。
最後になりましたが、これまでの初期研修を支えてくださった皆様に改めて深く御礼申し上げます。医師として、一人でも多くの方々がほんの少しでも生きやすくなるように尽力いたします。今後ともご指導ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。