研修だより

初期臨床研修の2年間を振り返って

熊本大学病院初期臨床研修医 Cプログラム
寺尾 孟将

 今回、「研修医だより」執筆の機会をいただき、簡単ではございますが私が経験した初期研修医としての2年間についてご紹介させていただきます。
 私は熊本大学病院群後臨床研修プログラムCコースで、1年目は熊本労災病院で、2年目は熊本大学病院で研修を行いました。また、研修期間中に一か月間必須となっている地域医療研修は、公立多良木病院を選択しました。

〈熊本労災病院〉
 熊本労災病院は県南を代表する中核病院として地域医療の要を担っている総合病院であり、急性期から慢性期まで多様な患者さんが集まり様々な症例を経験できます。さらに熊本労災病院の研修では、1タームを4週間区切りとしているため1年間で13タームと1ターム分多く研修することができ、私は糖尿病代謝内科、神経内科、呼吸器内科、外科、消化器内科、救急、麻酔科、耳鼻咽喉科、小児科、産婦人科、循環器内科と様々な領域で学ぶ機会を頂きました。

 救急医療については、毎月の日当直は3~4回ほどであり、当直に関しては23時までとし、翌日も通常業務を行うという形をとっていました。救急に携わる機会はそれだけではなく、日中の院外CPA症例は院内放送で研修医にアナウンスがあり研修医みんなで対応します。また研修1年目前半で内科研修中は日中の内科救急に対応させていただく機会もありました。そのため救急においても多くの症例を経験することができました。たとえば意識障害の原因で、その頭文字からAIUEOTIPSと学生の時にしっかり覚えたものがあります。働き始めた当初は原因がたくさんありすぎるな、と思っていましたが、1年間救急で経験した症例を振り返るとほぼすべてを経験していたことに驚きました。救急の忙しさは日によって様々でしたが、時間があるときは一つ一つの症例について指導医とじっくり考えることもでき、救急の力をつける場としては最適な環境でした。

 他にも研修医のうちに力をつけたいことはいろいろあります。手技に関して言えば、気管挿管やCVポート、腰椎穿刺や胸腔穿刺、エコーなどなど。実際にやってはみたいけど、参考書を見ただけではよくわからず、そんな時にありがたかったのが、いろんなシミュレーターが研修医室のすぐ近くに用意されていたことです。空いた時間ですぐに使えるように準備されているため、同期と一緒に繰り返し練習したことを思い出します。エコーについてもエコー室に何度も押しかけ検査技師の方々からエコーの当て方を教えてもらっては、お互いにエコーを当てながら学ぶことができました。

 最初はカルテの書き方もわからず、本当に何もできないところからのスタートでしたが、豊富な症例や、設備、そして先生方や医療スタッフの方々がなんでも丁寧に教えてくださるという恵まれた研修環境であり、大きく成長できたと感じます。

〈熊本大学病院〉
 研修2年目の4月からは熊本大学病院での研修でした。市中病院とは異なり一つ一つの症例が複雑ではありましたが指導医層が厚いこともあり、各疾患について深く学ぶことができました。例を挙げると、呼吸器内科研修中に、重症喘息でかかりつけであった方が、末梢神経障害により体動困難となり入院となりました。神経診察では四肢の筋力低下と感覚異常を認めており、これまでの既往や血液検査と合わせても好酸球性多発血管炎性肉芽腫症と考えられてはいましたが、確実な診断にはもう少し日数がかかる状況でした。しかし、末梢神経障害の症状は重く、今以上に進行しないように、また重度な後遺症を残さないためにも早急な治療が必要でした。そのためステロイドパルス療法とIVIG療法が入院後早期に開始されました。その後、診断も付き症状も徐々に改善を認め、退院時には末梢神経障害の後遺症はやや残っていたものの日常生活は送れるレベルまで回復しました。大学ならではの貴重な症例を、入院時の診察から診断基準と照らし合わせて診断に至り、症状の進行状況から治療の開始のタイミングを検討、原疾患による合併症精査、治療による合併症対策、生物学的製剤の導入、症状軽快の過程から退院まで1か月間で深く学ぶことは今後の医師人生でも大きな財産になると感じました。ほかの診療科においても、精神科では統合失調症患者の腎移植の安全性について検討する機会や、耳鼻咽喉科では手術時間が12時間以上にもおよぶ頭頸部の手術、形成外科では様々な皮弁再建術を経験することができました。

 また熊本大学病院ならではという研修としてリハビリテーション部、緩和ケアセンター、法医学講座、中央検査部などで研修することができます。私はその中でリハビリテーション部と緩和ケアセンターをそれぞれ一か月研修しました。リハビリテーション部ではこれまで行っていた現病歴などを聞く一般的な問診とは異なり、どのような自宅(平屋or 2階建て)で生活しているか、自宅で一緒に生活している人は誰か、仕事は何をしているかなども聞いていきます。今まで以上にその人の生活をイメージし、どのようにすれば元の生活を送ることができるか、というところまで考えていく必要がありました。家での生活まで考えることは非常に重要であり、違う視点を得ることができ非常に有意義な研修でした。緩和ケアセンターでは、疼痛コントロールや不眠、不安に対する学びはもちろんですが、患者さんの気持ちを汲み取ることの難しさを痛感しました。病棟の患者さんが口では大丈夫と言っていても、その発言と表情が一致していないことがあり、本心をどのようにして理解すればよいか考えさせられる場面が多々ありました。他にも症例発表や学生に対して講義をする機会やペインクリニックで様々な神経ブロックについての新しい知見を得ることなど良い経験ができました。

 大学病院で研修するメリットは他にもあり、入局先についてその診療科の特徴や雰囲気を知れること、様々な診療科の先生と知り合いになれること、研修医同士でいろんな病院での研修の情報共有し視野を広げることができること、診療科変更の自由度が高いこと、論文検索や医学部図書館が利用できることなど、市中病院とは違ったメリットがあり充実した研修生活を送ることができました。

〈公立多良木病院〉
 私は学生の時に公立多良木病院で3週間実習したこともあり、研修医での地域医療研修でも公立多良木病院で研修することを希望しました。

 多良木病院では主に内科の先生方に指導の下、日々の診療を行いました。一般外来では初診の患者さんを診察する機会も多くあり、その中に特に印象に残った患者さんを一人紹介します。その方は80歳代の方で食欲不振のため家族と一緒に受診されました。現病歴や既往歴、内服薬などの聴取、身体診察を行うと、食欲不振とともに嗄声の症状も認めるようになっていたとわかりました。食道や反回神経に何かしら原因があり症状を呈しているのかと思いながら、食事もとれていなかったので入院後に点滴と原因精査(画像検査や上部消化管内視鏡検査など)の方針となりました。ところが入院時の胸部Xpで弓部大動脈瘤が判明し、すぐに他病院へ紹介する運びとなりました。主訴である食欲不振からは予想できていなかったこと、嗄声の所見とも合わせると見逃してはいけない疾患であったことなど、自らの力不足を感じるとともに、改めて診療するうえで問診や身体診察が重要であることを強く感じた貴重な症例でした。

 また多良木病院ではへき地医療にも寄与しており、五木村診療所や古屋敷診療所、槻木診療所の3か所に定期的な医師派遣をしています。研修中に五木村と槻木で研修する機会がありました。五木村診療所はへき地医療といっても1日に20人ほどの患者さんが来る診療所で、エコーや上部消化管内視鏡検査、レントゲンなどの設備があります。多くは高血圧や糖尿病などの定期受診ではありますが、身体診察から精査が必要な場合は人吉医療センターと連携して診療を行います。もしこの診療所がなければ、病院を受診するために30㎞程の移動が必要な場所であり、へき地医療の重要性を学ぶことができました。また、槻木診療所では今も紙カルテが使用されています。学生実習のときにも来たことがあり、実際に診察しカルテを書きました。研修医として再度訪れた槻木診療所でしたが、診察した際に患者さんの名前に覚えがありカルテを振り返ってみると、学生時に私が書いたカルテを見つけました。研修期間中は診療科が短期間で変わるため長期で患者さんを見ることがなかなかないため、今回偶然ではありましたが2年前の学生時に診た方のその後の経過を知ることができ、そして元気に生活していることがわかったことに嬉しさがありました。

 ほかにも、病棟でCV穿刺やSBTを実施し実際に抜管したり、訪問診療や救急対応などと充実した研修生活を送ることができました。また豊かな自然や新鮮な食材を満喫でき心が洗われるような1か月を過ごすことができました。

 〈さいごに〉
 ここには書ききれないほどに2年間を振り返ると本当に多くのことを経験し成長できと感じます。これも、ご指導いただいた先生方や医療スタッフの皆様、研修環境を整えてくれた皆様のおかげです。この場をお借りして心より御礼を申し上げます。まだまだ医師としての生活も始まったばかりであり、知識や経験など未熟なところを感じる毎日ではありますが、研修生活で培った基盤をもとにこれからも日々精進し着実に成長していきたいと思います。