研修だより

初期臨床研修の2年間を振り返って

熊本⼤学病院初期臨床研修医 ⾃由設計コース
村井 翔⼀

 今回「研修医だより」執筆の推薦をいただき、この機会にて私の2年間の初期臨床研修を振り返ってみたいと思います。
 私は熊本⼤学を卒業後、熊本⼤学病院へ研修医として⼊職し、主に熊本⼤学病院で研修しながら、関連病院での研修として1 年⽬3 ⽉〜2 年⽬6 ⽉に荒尾市⺠病院(現:有明医療センター)、2 年⽬8 ⽉に地域医療研修として球磨郡公⽴多良⽊病院、また2 年⽬10 ⽉〜12⽉に新別府病院の計3 施設で研修しました。令和3 年度までの熊本⼤学病院での初期臨床研修では、関連病院での研修は1 年⽬または2 年⽬の1 年間と地域医療研修の最⼤2 施設(熊本⼤学病院総合診療科の外部診療拠点を除く)となっていましたが、令和4 年度よりそれまでの標準とされていた4 種類の初期研修コースが「⾃由設計コース」として統合されました。さらに、関連病院での研修が各病院で定められた最低受け⼊れ研修期間の範囲内にて合計して1 年間研修可能という取り決めに変更となり、フレキシブルな研修スケジュールを組むことができるほか、地域医療研修も含めて最⼤4 施設での研修が可能となりました。⾃⾝としては「将来、⼀⼈前の医者として働く上で、対応に困ることがないようにする」ということを初期研修の最終⽬標と設定し、⾃由設計コースの新制度を活⽤し主に研修1年⽬を⼤学病院にて医業の基礎・基本の習得・研鑽に努め、研修2年⽬をさまざまな関連病院での研修にて応⽤するというコンセプトとしました。以下、研修について研修施設毎に振り返っていきます。

〈熊本⼤学病院〉
 学⽣の頃は、⼤学病院は患者数に対して医師の数が多いことから初期臨床研修は漫然と学⽣実習の延⻑のような、臨床への関与があまり⼤きくないイメージがありましたが、いざ研修医として働き始めると全く違った、というのが⼊職して最初に感じたエピソードでした。具体的には、毎⽇の診察や検査結果から患者の状況・病態を考察し、必要な治療や予定検査項⽬を指導医と検討し、患者への検査結果の説明を⾏うといった、まさに医業の基本となることを⾏う⽇々でした。最初の2 ヶ⽉は⾎液内科で研修しましたが、疾患背景や患者背景などが複雑な症例が多く、また基本的には指導医から教えてもらうのではなく全て⾃分で説明できるように考える研修⽅針であったこともあり、検査結果・バイタルの分析や検査項⽬を数百ある中から⼀つずつ選定することにとても苦労していたのが印象に残っています。今振り返ってみれば、このときから⾃分で⼀から考えること、わからないことはきちんと調べることを習慣化できたことがその後の研修において⼤きなメリットに繋がったと思います。他、熊本⼤学病院では循環器内科、糖尿病・代謝内分泌内科、総合診療科、呼吸器外科、⽪膚科、⼩児科、産科・婦⼈科、神経精神科、中央検査部を研修し、各診療領域における基礎基本の修得を⼼がけました。

〈荒尾市⺠病院(現:有明医療センター)〉
 荒尾市⺠病院では腎臓内科、救急科、⿇酔科にて計4ヶ⽉研修しました。腎臓内科では主に外来での維持透析患者の診療が多く、主に透析シャント穿刺や維持透析患者の健康管理などについて勉強できました。それまで⾃分にとって難解と感じていた維持透析への苦⼿意識が軽減したと思います。救急科は2年⽬4 ⽉・5⽉に研修し基幹型1年⽬研修医と⼀緒の研修であったことから、熊本⼤学病院での経験を活かした診療や1 年⽬研修医の指導に携わりました。荒尾市⺠病院は⼆次救急指定病院でありながら、脳⾎管疾患などの三次救急相当の症例も多く、救急搬送患者・walk-in患者含めて満遍なく症例経験できたと思います。⿇酔科ではマッキントッシュ喉頭鏡での気管挿管が基本であり、気管挿管の体得に苦労しました。

〈球磨郡公⽴多良⽊病院〉
 球磨郡公⽴多良⽊病院での地域医療研修では、内科・総合診療科に所属し⼊院患者診療と並⾏して外来初診診療(⼀般外来診療、発熱外来、健診異常患者の診療・⽣活指導)や診療所診療、訪問診療と、幅広い研修を⾏うことができた1ヶ⽉でした。⼊院患者診療では初めて内科患者の主担当医として指導医より診療の多くを任され、熊本⼤学病院糖尿病・代謝内分泌内科での研修で学んだ糖尿病診療チャートをはじめとして、熊本⼤学病院および荒尾市⺠病院で学んだ診療技術をフルに活⽤していくこととなり、診療の⾃信に繋がることもありました。その⼀⽅で、外来初診より担当していた⼊院患者さんの⼀⼈である膿胸の⾼齢患者さんの診療では地域医療の現実を痛感させられました。ガイドラインでは、膿胸の患者さんの治療は⼀般に外科⼿術が第⼀選択となりますが、熊本市内よりも緊急⼿術や患者搬送が容易ではないため、指導医と協議して内科的治療を先⾏し、それでも治療コントロールが困難で耐術能があり家族の同⾏ができる場合に⼿術搬送を検討するという⽅針となりました。その患者さんは地域医療研修が終了する頃には抗菌薬・ドレナージ治療で病勢はコントロールできつつあったものの、⻑期の炎症により明らかに体⼒低下が深刻で寝たきりに近い状態となっており、へき地診療の限界の⼀つを感じた研修でもありました。

〈新別府病院〉
 新別府病院は⼤分県の三次救急指定病院であり、⼤分県では唯⼀の三次救急指定の市中病院です。病床数は200 床程度と決して多くはないものの、救命救急センターを併設しており「断らない救急」を原則として掲げ、主に⼤分県内の別府以北の医療圏の要としてあらゆる重症度の患者の受け⼊れが⾏われています。現在では循環器内科、脳神経外科(隔⽇)が熊本⼤学病院より医局派遣となっているほか、熊本⼤学出⾝の先⽣⽅も常勤医として複数在籍しています。3ヶ⽉間、救急科で研修しましたが、特に外傷や⼼肺停⽌患者への診療が多く経験できたと感じております。新別府病院での救急外来では、⼀般的な救急対応(紹介患者、救急外来受診患者への診療)の他、平⽇⽇中の時間帯のドクターカーでの現場医療活動もありました。具体的には、地元の救急隊より、主に⼼肺停⽌(疑い)/急変患者に対するドクターカー応援要請に際して、医師(指導医、研修医)・看護師・事務スタッフと現場へ同⾏し、病院搬送までの最初の蘇⽣処置に携わる機会も多くありました。ドクターカーで向かう先は⾼齢者施設や個⼈宅、旅館など、普段研修する病院とは全く違う環境でした。救護のための各種医療器具は病院から持ち込みで⾏い、病院搬送を遅らせないことを第⼀とするため、⼈員も物資も時間も限られていたことが殆どでした。こうした現場での医療⾏為は初めての経験だったこともあり、緊迫した中で救急隊と協⼒しながら、状態に応じて臨機応変に「⾃分ができることを瞬時に判断し⾏う」ことの難しさを実感しました。
 また、別府は⽇本有数の観光地としても知られ、昼夜問わず観光客や⽇本語・英語が話せない外国⼈も多く受診されます。現場では翻訳ツール(翻訳アプリ、ポケトークという翻訳機など)を⽤いたり付き添いの通訳を介した診療を⾏ったりすることが多く、これも併せて貴重な経験となりました。
 当初より必修での救急研修とは別に⾃⾝の⾃由選択期間にも救急研修を⾏うことを計画しており、その⽬的として敢えて未知の医療環境に⾝を置くことで多様に変化する現場で柔軟に対応する術を⾝に付けることと考えていました。この⾃由選択期間での救急研修の研修病院先を選ぶにあたっては、幅広く経験できるという特徴に惹かれて新別府病院を選んだ訳ではありますが、予想以上に幅広い環境・症例を経験でき、この経験を今後の診療に⼤いに活⽤していきたいと思います。

 最後に、この場をお借りして、ご指導いただきました先⽣⽅・医療スタッフの皆様、研修環境の整備に携わっていただきました皆様に厚く御礼申し上げます。