研修だより

2年間の初期研修を振り返って

熊本大学病院初期臨床研修医 自由設計コース
山本 芙沙里

 この度、熊杏への寄稿という貴重な機会をいただき、誠に稚拙ではありますが2年間の初期研修についてご報告させていただきます。

 私は令和4年に熊本大学を卒業後、熊本大学病院での初期研修を開始しました。1年目、2年目ともに当院で研修を行い、地域医療研修の1か月間のみ熊本市立植木病院で研修を行いました。私は学生時代より眼科を志望しており、地元である熊本で医師として働きたいと考えていたため、眼科があり県内唯一の特定機能病院である当院を研修施設として選択しました。また、学生時代より初期研修修了後の進路を決めていた自身にとって、当院の自由度の高い初期研修プログラムは非常に魅力的でありました。


 ここで、当院の卒後研修プログラムについて簡単にご紹介させていただこうと思います。前年度まで採用されておりましたA・B・C・Dコースは統合され、自由設計コースという名称に変更されました。さらに、総合診療・地域医療特化コース、小児科・産婦人科特化コースの2つが設置されております。令和4年度より新設されました自由設計コースについて簡単に説明させていただきますと、当コースでは2年間の研修のうち、最短1ヶ月~最長1年まで協力病院・施設での研修を選択することができます。また、12か月の期間内であれば最大3施設まで選択し研修を行うことが可能です。さらに、10か月間は自由選択期間として自由に診療科を選択し研修を行うことができます。私はこの制度を利用し、当院での2年間の研修のうち10カ月間を眼科ローテートとしました。

 以下が私自身の2年間の大まかな研修スケジュールとなります。

 1年目は必修科目である内科、救急・麻酔科、小児科、産婦人科、外科をローテートしました。2年目の5月までに精神科、地域医療を含むすべての必修科目の研修を修了し、2年目の6月より研修終了までの10ヶ月間は眼科をローテートしました。

 研修1年目はまず医師としての基本的な業務や知識を身につけるために内科ローテートを中心に行いました。内科ローテートの6か月間は糖尿病内科、神経内科、膠原病内科、呼吸器内科と、眼科に関連が深い診療科を中心に選択しました。内科ではカルテの記載、検査・処方のオーダー、紹介状作成等、医師としての基本的な業務や採血、ルート確保などの基本的な手技を学びました。また、内科では眼科とかかわりが深い疾患の患者様を中心に担当させていただき、それぞれ短い期間ではありましたが今後眼科を専門とする上で必要な知識を習得することができたと思います。

 外科ローテートでは頭頸部の解剖を深く学びたいと考え、耳鼻咽喉科頭頸部外科を選択しました。さらに、精神科、産婦人科、小児科の必修分野の診療科では、他科の立場から眼科に関わることのできる最後の機会だと思い、眼科的副作用に注意すべき薬剤や、コンサルト依頼する側の意図などについて意識しながら研修を行いました。この時に学んだ知識は現在、院内コンサルトの診療にあたる際に非常に役に立っています。

 日々慣れないことばかりで、目まぐるしく過ぎていったように感じた1年目でしたが、その中で特に印象に残っているのは救急外来研修です。私が救急外来をローテートした2022年7・8月は新型コロナウイルス第7波が猛威をふるっており、県内でも1日4000人以上の感染者が発生している時期でした。自分の身も守りながら、感染を絶対に拡大させてはいけないという状況の下で診療にあたらなくてはならず、非常に緊迫感のある日々でした。救急外来では発熱者対応が多くを占めておりましたが、軽症から外傷、心肺停止など様々な症例を経験する中で、科にとらわれない幅広い知識が必要とされ、自身の未熟さをひどく実感させられる2カ月間でした。


 2年目の5月に行った地域医療研修は私自身にとって最後の必修研修となりました。私が研修を行った熊本市立植木病院は熊本市北部に位置しており、市内中心部から車で40分ほどの場所にあります。植木病院での研修は2年間大学病院での研修しか経験していない私にとって目新しいことばかりでした。

 地域医療研修の中で強く印象に残る患者様がいらっしゃいました。悪性腫瘍に対する治療を他院で行った後、植木病院でフォローを継続されている方でした。その日の定期受診で再発の徴候を認め緊急に精査を行ったところ、再発と急速な増悪により予断を許さない状況であることがわかりました。これから非常に深刻なICが行われることを覚悟しましたが、命の危険もあり今すぐ紹介状をもって他院を受診するようにと伝えられても、その方は田植えがあるから無理よと笑っておられました。先生が何度説得されても田植えの方が大事だからと笑いながらおっしゃるばかりで、最後には先生も私もつられて笑ってしまうほどでした。結局最後までその方は田植えがあるからと言い、笑顔で診察室を出ていかれました。植木地域は農業を生業としている方が多く、田植えや収穫の時期には入院してもらうことはできないと教えていただいていましたが、実際に自分の命よりも田植えを優先される姿をみてあっけにとられてしまいました。命よりも大事なものがあるということは今の自分にとっては理解しがたいことではありましたが、自分にとっての正解が必ずしも患者様の正解ではないということを忘れてはいけないと思いました。ありきたりなことかもしれませんが、限られた診療時間の中で患者様を疾患としてだけではなく、人として理解しようとすることは今後医師として働いていくうえで大切していきたいと思っています。


 ここからは10ヶ月間の自由選択期間(眼科ローテート)についてご紹介させていただきたいと思います。研修2年目の6月より眼科研修を開始しましたが、眼科では診察方法(細隙灯顕微鏡検査、倒像鏡による眼底検査など)や検査、カルテシステムなどそれまでの診療科とは異なる部分が多く、戸惑うことが多かったことを覚えています。初めの2カ月間は指導医の先生と一緒に患者様の診察を行い、細隙灯顕微鏡検査や眼底検査、カルテへのスケッチなどの診療トレーニングに取り組みました。外来では検査係として、眼底写真撮影、光干渉断層撮影や眼科造影検査等を学び、若手の先生方や視能訓練士の方々と一緒に日々多くの患者様の検査にあたりました。

 ローテート3ヶ月目からは主治医として自身の患者様を受け持たせていただけるようになりました。指導医の先生にご指導をいただきながら、入院から退院までの一連の業務、診察を一人で行うことができるよう担当の患者様の診療にあたりました。眼科は通常の白内障手術であれば2泊3日での入院となり、患者様と短いお付き合いとなることも多いですが、主治医となることでより責任感を持って診療にあたるようになりました。ローテート6カ月目頃からは院内コンサルトにも携わらせていただけるようになり、上級医の先生方にアドバイスをいただきながら、自身で検査・診察を行い治療方針を考えていくようになりました。

 現在眼科ローテートも9か月目に入ったところですが、日々わからないことに突き当たり毎日学ぶことばかりです。現在は日々の診療トレーニングに併せて、来年度以降の執刀を目標に手術助手に入り技術を学びながら、豚眼での白内障手術トレーニングを積んでいます。また学術的な面では、今年5月に開催される眼科学会での発表に向けて症例報告を作成している最中です。

 研修が始まった頃は、10ヶ月間はあまりに長かったかもしれないと思うこともありましたが、眼科ローテートが始まってからの日々は本当にあっという間に過ぎていきました。初期研修のうちから眼科医としての一歩を踏み出せたことは自分にとって大きな意味があったと思っています。直接的に生命にかかわることは少ない診療科ではありますが、患者様のQOLに密接にかかわるという点で大きな責任感とやりがいを感じています。


 最後に、2年間の初期研修を終えるにあたり、当院での研修を選択してよかったと実感しています。大学病院はやはり指導医の先生の数が多く、各分野のスペシャリストの先生方がそろっているという点で知識・技術の研鑽を行うにあたり非常に恵まれた環境であると思います。また、若手の先生方も多く年の近い先輩のように、様々な相談にのっていただいたことも初期研修の中で大きな助けとなりました。初期研修としては偏ったカリキュラムとなりましたが、自由設計コースという名の通り、自由でありながらも明確な目標を持ち突き進めた有意義な2年間であったと思います。2年間の研修を無事に修了することができるのは、各診療科の先生、スタッフの方々に支えていただいたおかげだと実感しています。特に眼科の先生方には研修医という身ではありましたが、医局員の一人のように接していただいたことに誠に感謝しております。この研修だよりを執筆するにあたり、2年間を振り返りながら多くの反省点、後悔が浮かびましたが、この点については残りの1か月そして4月からの後期研修に生かしていきたいと考えています。

 最後になりましたが、2年間ご指導いただきました各診療科の先生方、医療スタッフの方々、また研修生活を支えていただいた研修センターの皆様には、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。