研修だより

出会いを通して

熊本大学医学部附属病院群臨床研修医Dコース2年次  中嶋 梨沙

 私は平成22年3月熊本大学医学部医学科を卒業し、晴れて4月より熊本大学医学部附属病院で研修を始めました。私が選択したDコースは2年間を大学で研修するコースで、内科6ヶ月、選択必修3ヶ月、救急3ヶ月、地域医療1ヶ月終了した後の11ヶ月間は基本的に自分で研修する科を選択します。

 私は学生時代、腹部外科と頭頚部外科に興味を持ち、将来はいずれかの科に進もうと考えましたので、1年目は周術期管理、術前・術後合併症に関して勉強出来る科として、腎臓内科、循環器内科、消化器外科、麻酔科で研修をさせて頂きました。その後、救急研修として国立病院機構熊本医療センター救急部に3ヶ月お世話になりました。

 1年目、特に最初の半年間は病棟業務に関する知識が全くなく、カルテの使い方、コンサルトの仕方、診療情報提供書の書き方、カンファレンスでのプレゼンテーション方法と全てにおいて、指導医の先生に手取、足取りご指導頂きました。診療においては、自分の判断、処置、行動・言動が責任のある重みとしてのしかかり、胃がキリキリ痛むことが度々ありました。しかしながら、患者さんと指導医の先生に暖かく見守って頂き、楽しく、やりがいのある研修の日々が過ぎていきました。

 研修を始めた当初、自分には内科は絶対向いていないと思っていましたが、病態によって内服・注射の調整をし、患者さんの状態が良くなっていく様子を見て、内科が面白く感じるようになりました。そのため、2年目は外科での長期研修は行わず、自由選択の枠で呼吸器内科、耳鼻科咽喉科・頭頚部外科、精神科、画像診断科、救急部を選択しました。上記の科は学生の頃から苦手で、研修で選択するとは全く思っていなかったのですが、実際研修してみると、診察・診断、病気のとらえ方、治療、先生方の思考方法がそれぞれ違っていて、自分にとって新たな視野を得る良い機会になったように感じます。

 卒後臨床研修制度が義務化され約10年経とうとしています。研修制度開始以前は、医学部6年生の冬に将来の入局科を選択していたということですが、私たちは研修期間の2年目の秋に将来の進路を決定することになります。学生時代から○○科に入る!と意志が固く、2年間を通して全く変わることのない人もおりますし、研修しながら何科が自分に向いているのか探すという人もいます。また私の様に当初考えていた科とは違う科に興味を持って、何科にしようか悩む人も少なくないと思います。

 私の場合、研修開始時点では消化器外科か耳鼻咽喉科・頭頚部外科以外の選択肢はありませんでした。しかし研修を通して、内科にも興味を持つようになりました。特に地域医療研修で高千穂町国民健康保険病院へ行った際、内科の指導医の先生の診療がとても素敵で、将来は自分もこんな風に患者さんと接して、診療をしたいと思うようになりました。

 内科、外科どちらでも、将来は癌の診療に携わりたいと考えていましたが、大学では進行癌で、重症の方が少なくなく、緩和・終末期医療を必要とすることを度々目にしました。そのような方々に対し、将来専門医として治療を行う重責に耐え得るだろうかと悩みました。特に外科は自分の好きな手術が、患者さんにとっては重要な臓器を切除してしまうことで、場合によっては機能も奪ってしまいます。そのことも含めて、責任を持ち、将来いつか自分が執刀する日が来るのだろうかと考えると、どうしても無理なように思いました。

 また外科、内科どちらの先生からも、「女性医師は将来結婚して、子供を持ったときのこともきちんと考えて、続けられるような科がいい。きちんと人生設計して行動しないと、後悔するよ。」と言われました。

 悩み続けて、気がつくと2年目の12月になっていました。1年目で消化器外科を回った後、2年目の7月、8月に耳鼻咽喉科・頭頚部外科で研修を終えた後は、地域医療で内科、大学に戻って精神科、画像診断科で研修をしていたため、外科手術への責任が持てる自信がわくような経験はありませんでした。

 そんな中、12月末に消化器外科医を目指す決心をしました。そう決めたのは、三つ大きな出来事があったからです。一つは高校時代の担任の先生に年賀状を書きながら、医学部を目指したときの気持ちを思い返したことです。二つ目は二年間の研修で出会った患者さん、指導医の先生方を思い出したこと、三つ目は夏目漱石の『門』を読んだことでした。

 高校時代の先生方のおかげで、私は熊本大学医学部に進学することが出来ました。そして大学病院の研修および地域医療研修で、理想とする先生方に出会いました。病棟で出会った患者さん、救急外来で出会った患者さん、最後のお見送りさせて頂いた患者さんとの出会いで、医療と何か、命とは何か、人生とは何かと考え、痛感し、医師としての姿勢を学ばせて頂きました。これまで出会った人々に対して、どのような医師を目指せば、恩返しが出来るか、晴れ晴れとした気持ちで再会出来るかを思った時に、出来るか出来ないかで考えるのではなく、自分でやるんだという覚悟が必要なことに気がつき、消化器外科を選ぶという決意をしました。

 残り数週間で研修期間が終わろうとしています。二年間を振り返って、今更もっと勉強しておけば良かったと反省する日々です。研修は数ヶ月単位でそれぞれの専門科をローテーションするため、特別な技術・治療を習得するのは難しいように思います。しかし様々な科での診療に携わることで、より多角的な視野で医療をとらえるようになり、また多くの人々と出会い、コミュニケーションの大切さを学び、柔軟性のある考え方が出来るようになったと思います。この二年間で得た医師としての姿勢を基礎に、来年度から消化器外科医として一人前になることを目指し頑張ろうと思います。そして何十年先になったとしても、一人前になったら、地域医療に貢献したいと考えています。
これまでお世話になった皆様、叱咤激励してくださった先生方、本当にありがとうございました。専門医を取得したら報告に行きます。それまでどうか見守っていてください。