研修だより

「1年目初期研修をふりかえって」

熊本大学医学部附属病院群臨床研修医 Aプログラム
松下 晴香

 熊大同窓会報であるこの熊杏に寄稿のお話しをいただいた際に、自治医科大学出身である私が何を執筆させていただけばいいのか悩みましたが、初期研修医としてこの1年間たくさんの先生方にお世話になりましたので、まず感謝の気持ちをお伝えしたいと思いました。そしてこの機会に、これはまでの初期研修について改めて省みてみようと思います。

 熊本大学附属病院で初期研修させていただき、たくさんの出会いがありました。他大学出身で知り合いもほとんどおらず心細く迎えた4月から始まり、同期、2年目の先輩方、各科の先生方にお世話になりながらもうすぐ1年がたとうとしています。この1年はあっという間でした。これまで呼吸器内科、麻酔科、皮膚科、消化器内科、精神科、腎臓内科、代謝内科、神経内科をローテートさせていただき、残すところはICUと画像診断科です。

 右も左もわからず(まさに字の如く院内で迷うところから始まり)、医師としての病棟業務の基礎的な部分から、病態に対する思考のプロセス、患者様・ご家族との接し方に至るまで、各科の先生方のその豊富な知識に大いに刺激を受け、医師としての姿勢に感化されながら過ごした1年間でした。学生のときに身に着けた型としての医学的知識に、少しずつ経験が裏打ちされていく過程は楽しかったのですが、自分の知識不足に落胆しながら学び直すことも多く、時間がなく曖昧なままその場をやり過ごしてしまうこともありました。そんな曖昧さを逃してくれないのがカンファレンスです。カンファレンスではいかに要点を的確に伝えるかが問われます。理解が伴っていない、考察が行き届いていないカンファレンスの薄っぺらさを、身をもって体験することもありました。どんなに出来の悪いカンファレンスをしても、たいていは温かくご指導いただくのですが、その温かさもあいまって自分の未熟さを改めて自覚させられ、その悔しさが次のカンファレンスへの肥やしとなっていたように思います。またカンファレンスに向けて上級医の先生方にご指導いただくことで、それぞれの患者様の病態をどのように考えどう診療していくのか、深く考えるようになりました。たくさんの先生方の思考過程に触れられたことは、この1年の貴重な経験だと感じています。

 そして同期の存在は大きいです。分からないことだらけで関係各所に多大なご迷惑をかけながら診療にあたり、不安も多く、自分の不甲斐なさに落ち込むことも多かったです。同期に相談したり愚痴をきいてもらったりしながら過ごしたからこそ乗り越えられた毎日でした。また、熊大病院の初期研修は研修の選択度が高く、それぞれの考え方に応じて幅広いスタイルの初期研修が可能です。よって様々な目的をもった同期がいます。医師としての職務の多様さや幅広さを感じ、また各々のフィールドで活躍していくのであろう素晴らしい仲間に出会えたことを嬉しく思います。

 2年目研修医の先輩方にもたくさんの場面で助けられました。多くは大学病院外の病院においても研鑽を積んでこられた先輩たちです。困ったときはもちろん、各科の勉強方法についてもアドバイスをいただき、また診療場面ではその姿に刺激を受けることも多かったです。

 自治医科大学卒業生である私は、2年の初期研修が終われば、7年間、県が指定する熊本県内の病院で地域医療業務に従事することになっています。3年目から医師数の少ない現場に行かなくてはならないため、手技や臨床技術を早期に身に着けるには市中病院のほうがいいのではないか、当初は大学病院での初期研修に不安もありました。私はまだ大学病院でしか研修をしていないため、比較してどうこうの話はできませんが、たくさんの先生方のもとで体系だった教育を受けることができたように感じています。そして大学病院には、日々の病棟業務における学びから、臨床・基礎ともにアカデミックなことまで、幅広く目の前に広がっていました。これから比較的小さな病院で勤務することが多くなる私にとって、これは貴重な経験であったと思います。熊大附属病院は、研修医は学ぶ立場のものとしてしっかりサポートされ、教育するスタンスの出来上がっている場であると同時に、その幅広いフィールドゆえに、熱意を示せば無限のチャンスが広がっている場であると感じました。

この1年で医師として自信をもって完遂できる診断・治療がどれだけあるかと問われれば、それは数少ないのが事実です。しかし、これまで学んだ思考・考察プロセスと、いくばくかの知識・経験の寄せ集めが、今後の日々の診療に生きてくるのだと思います。私はAコース所属のたすきがけで来年度は熊本赤十字病院で1年間研修させていただきます。大学病院とはまた違った市中病院ならではの経験ができることと期待しております。慣れない環境ではありますが、本年度経験したことを生かしながら、また新たな気持ちで積極的に学ぶ1年にしたいです。

また前述の通り自治医大出身の私は3年目から地域医療を行っていくことになります。しかしその診療はまだまだ未熟であり至らぬ点も多いかと思います。もちろん地域でも日々研鑽を積みながら診療にあたりたいと思っておりますが、各諸先生方がこの文章をお読みのことと思いますので、お世話になることがありましたらご指導いただけますと幸いです。