熊本大学医学部附属病院群臨床研修医 総合診療・地域医療特化コース
松田 圭史
早いものでもうすぐ2年間の初期臨床研修が終わります。辛いこと、苦しいこともありましたが、それ以上に嬉しいこと、楽しいことも数多くありました。まずはこれまで支えてくださった皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
私は総合診療・地域医療特化コースを選択し、1年目は大学病院、2年目の最初の8ヶ月を地域の病院、残り4ヶ月を大学病院で研修しました。大学病院では充実した指導体制のもと、基本的な診療の技術や医師としての心構え・考え方など多くのことを学ぶことができました。大学病院での思い出も数多くありますが、総合診療・地域医療特化コースですので、地域の病院での話を中心に記したいと思います。
地域の病院での研修は8ヶ月でしたが、1ヶ所だけでなく、人吉医療センター、公立多良木病院、そよう病院と規模の違う3ヶ所の病院で研修をさせていただきました。いずれの病院でも総合診療科での研修でしたが、病院の規模によって総合診療医の役割にも違いがあり、人吉医療センターではいわゆる病院総合診療医、そよう病院ではどちらかというとかかりつけ医に近いような役割でした。その中で共通して感じたことは総合診療科のニーズが高い、そしてそのニーズに応えるだけの人材がいないということです。最近のトピックスとして、地域の医師不足や新専門医制度で総合診療専門医が新たに加わる、などの話を見聞きし、総合診療・地域医療の必要性をある程度理解しているつもりでしたが、実際に地域の病院で研修して、その重大さを改めて肌で感じることができました。
研修医の立場としては、このような状況であるがゆえに、自分で考えたり判断したりする場面が多く、研修医という意識ではなく、一人の医師という意識で責任感を持って診療に取り組めたことはとても良かった点だと思います。
また、地域医療を経験して強く感じたことは、地域医療に従事する医師に求められる能力は医学の知識や技術だけではないということです。もちろん医師である以上、医学の知識や技術は必須だと思いますが、患者の心理社会的背景を考慮し、家族や保健・福祉・行政などと連携していくことも重要な要素であり、地域医療の醍醐味ではないかと思います。
そよう病院で研修していた際に、カンファレンス中に患者の名前を見ただけで、どこの誰で何をしていて家族構成はどうなっている、などの情報を先生方や看護師さんがやり取りされる様子は私にとって驚きの光景でした。また、定期的にそよう病院の職員、開業の先生、行政の職員、各保健・福祉施設の職員などが一堂に会して行われるカンファレンスも印象的で、私が思っていた以上に理想的な地域医療が実際に行われていることに感銘を受けました。
8ヶ月という短い期間でしたが、肺炎、尿路感染から心不全、脳梗塞など科にとらわれず幅広い疾患を経験することができ、また訪問診療や学校健診など地域医療ならでは経験も数多くありました。もともと総合診療・地域医療に興味がありましたが、さらにその重要性や魅力を感じることができ、とても充実した研修となりました。
研修医が終わり、来年からは一人の医師という立場になりますが、より一層の責任感と自覚を持ち、この2年間で学んだことを糧にさらに精進していきたいと思います。
最後になりますが、これまで熱心に指導してくださった先生方、優しく接してくださったスタッフの方々、そして多くのことを教えてくださった患者さんに心より感謝申し上げます。ありがとうございました。