ホーム > 研修だより

研修だより

「臨床研修を通して」

熊本大学医学部附属病院群臨床研修医A2コース
稲富 享子

 ベッドサイドで遭遇する、初めての経験や難問に奔走しながら毎日を過ごすうちに、瞬く間に2年間の初期臨床研修が終了しました。私は熊本大学医学部附属病院A2コースで研修をした二年次研修医です。振り返ると、この初期臨床研修の2年間では、病棟業務を円滑に行えるようになる、救急や地域医療・各科のローテートでPrimary careを学ぶ、学会発表や論文作成を通して臨床・基礎研究への導入を経験することができました。ベッドサイドで目の前の患者に尽力すること、臨床研究や基礎研究を通して世界中のたくさんの患者に貢献すること、どちらもとても素晴らしく医師としてやりがいのあることだと思います。大学病院でのローテートではこの両方のさわりを経験することができました。これは大学病院と市中病院の両方を経験できる大学病院での臨床研修だからこそできたことで、これが大学病院の研修の魅力だと思います。

 私の選択したA2コースは、初めの1年を大学病院で、次の1年を市中病院で研修し、内科6か月、選択必修3か月、救急3か月、地域医療1か月、その他の11か月は基本的に自由に研修する科を選択することとなっています。大学病院では、循環器内科、呼吸器内科、代謝・内分泌内科、消化器外科、乳腺・内分泌外科、精神科、緩和ケア(熊本ホームケアクリニック)で研修し、救急、麻酔科、産婦人科、形成外科、外科、内科、神経内科を熊本赤十字病院で研修しました。大学病院と市中病院、それぞれ経験する疾患は全く異なっていました。

  研修医になり、医師として患者家族とのかかわり方について考える上で、大きなヒントとなった経験をここでご紹介します。研修医1年次の秋、大学病院の消化器外科で研修した翌月に、在宅医療・訪問診療をしている「熊本ホームケアクリニック」で研修をさせていただいた時の経験です。外科で担当していた患者が、私のローテートと偶然にも時を同じくして同クリニックで訪問診療を受けることになりました。私は偶然にも大学病院と在宅医療の両方で同一患者の診療を経験することができました。この方は70代男性、進行再発大腸癌、癌性疼痛とがん性腹膜炎による腹水貯留があり症状緩和目的に大学病院に入院となっていました。大学病院では癌性疼痛に対してオピオイドを導入し、腹水貯留に対しては腹腔穿刺ドレナージを施行、Performance statusを考慮して化学療法は行いませんでした。退院後は自宅での在宅医療・訪問診療を希望されましたので、院内の地域連携支援室・緩和ケアチームの介入により在宅緩和ケアを導入、体制が整ったのちに自宅退院としました。退院後は訪問診療、訪問看護、訪問介護が導入され、それぞれ専門のアプローチを行い症状緩和につとめ、残された大切な時間を過ごすお手伝いをさせていただきました。倦怠感や腹水貯留による酸素化低下に対して副腎皮質ステロイド、在宅酸素療法を導入し、症状に合わせてオピオイドローテーションを行いました。大学病院では、手術にカンファレンスの準備に病棟管理にと、不慣れなことや分からないことも多く、非常に慌ただしい日々でしたが、訪問診療では1回の訪問に、1人の患者に約1時間もの長い時間をかけて行います。訪問のなかで患者家族の症状や病状理解、今後の方針の希望をゆっくりと聴き相談することができました。これは訪問診療中に、不意にもらされた一言です。

 「大学病院にいる時は、先生は私の病室にきてもいつもそわそわしていた。先生に体のつらさや困っていることを言えるような雰囲気ではなかったよ。患者は、実は先生たちのことをじーっと見てる。先生に言いたいこと、聞きたいことがある。けど遠慮して我慢してることが実は多いんですよ。」

 患者家族の不安や疑問を聴く姿勢・機会をきちんと持つこと、また不安や疑問に対して充分な情報を提供する機会を設けることの大切さを痛感した一言でした。振り返ると、当時の自分はそういった姿勢に欠けていたように思います。入院中は毎朝晩に顔をあわせていながらも、辛い気持ち、不安な気持ちに寄り添えなかったことを非常に申し訳なく思いました。医師患者の信頼関係において、これはとても基本的なことだと思いますが、意識して行わないと病気の治療に目が行くばかりでそのままになってしまうことも多いように思います。深く反省し学ばせていただいた、とても印象に残る経験です。

 また、大学病院での研修中には各学会研究会の参加、学会発表や英語での論文作成、そして海外の学会にも参加する機会をいただきました。将来の基礎及び臨床の研究・発表につながる非常に有り難い機会を数多くいただき、ご指導いただいた先生方には深く感謝しております。このような経験を通して、ベッドサイドで目の前の患者に尽力するだけでなく、研究を通して多くの患者の利益に貢献するという、医師としての重要な役割そして喜びを知ることができました。  振り返ると2年間、たくさんのことがありました。ご指導いただいた諸先生方、メディカルスタッフの方々に心より感謝申し上げます。ありがとうございました!この2年間で学んだこと・想いを忘れず、今後の糧とし精進して参ります。これからもベッドサイドで奮闘する日々が続きます。まだまだできないこと分からないことばかりで未熟者ですが、今後とも厳しく時にあたたかくご指導いただければ幸いです。

  • 総合臨床研修センター - ホーム
  • ページの先頭へ