緩和ケアセンターの紹介

センター長あいさつ

 がんをはじめとする生命を脅かす病気に対する医学・医療の進歩はこの数年でさらに加速し、個別化医療や新たな治療選択肢の登場により、その人の希望に沿った治療が少しずつですが確実に現実のものとなってきました。しかしその一方で、治療の副作用や病状そのものによる身体のつらさ、不安や不眠、社会的・経済的課題、そしてスピリチュアルな苦悩など、「生きることそのもの」に大きく関わる悩みや苦しみが、これまで以上に複雑化してきている気がします。

 そのような中で、「緩和ケア」は、単に「最期の時期のケア」ではなく、病気とともに生きる方々とご家族の「今」そして「将来」を支える医療・ケアとして、より早い段階から取り組まれるべきものと広く認識されるようになりました。緩和ケアとは、「病気に伴う体と心のつらさを和らげ、日々をその人らしく過ごせるよう支えるケア」です。医師・歯科医師、看護職、薬剤師、栄養士、リハビリ職、ソーシャルワーカー、心理士など多職種が連携するチームとして提供されます。

 これまで緩和ケアは「がん」に特化した取り組みと理解されがちでしたが、現在ではその対象は大きく広がり、心不全、慢性呼吸器疾患、慢性腎不全、神経筋疾患、救急集中治療など、命に関わるあらゆる疾患の方々が対象となっています。どのような疾患であっても、その人らしさに近づくように考えるのが、私たちの役割です。

 熊本大学病院では、平成26年9月に開設した緩和ケアセンターを中心に、院内での緩和ケアチーム・外来診療にとどまらず、在宅や地域で活動する医療・介護職への支援、また市民の方々への啓発活動にも力を注いでまいりました。私たちは、熊本県全体の緩和ケアの質の向上と普及に努める中核拠点としての責務を引き続き果たしてまいります。

 これからも、緩和ケアという専門性をもとに疾患に関わらず、多くの方々とそのご家族の「暮らし」と「生き甲斐」を支える存在でありたいと願っております。つらさや悩みを抱える方々、ご家族、そして同じ目的を持つ医療・看護・介護スタッフの皆さま、どうぞお気軽に私たち緩和ケアセンターへご相談ください。

 今後とも、皆さまの温かいご理解とご支援を、心よりお願い申し上げます。

令和7年7月
緩和ケアセンター長・教授 吉武 淳