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肝移植の手引き

熊本大学での生体肝移植の現状

 生体肝移植は毎年、日本肝移植研究会という組織が中心となって全国集計をしており、現時点では2009年末までの集計が最新のものとなっています。
 熊本大学では、現在年間35例程度の生体肝移植をおこなっており、小児(18歳未満)とそれ以上の比率は、約1対2です(図27)。

図27 熊本大学移植外科症例数推移(1998.1月~2010.12月)
図27 熊本大学移植外科症例数推移(1998.1月~2010.12月)

小児では、胆道閉鎖症、代謝性疾患、劇症肝不全が多く、成人では、C型、B型肝硬変、肝臓癌、代謝性疾患、劇症肝不全、胆汁うったい性肝硬変、などが多くなっています。熊本大学での、成人小児別の移植後生存率を示します(図28)。全国集計同様、やや成人で悪い成績です。

図28 成人、小児別累積グラフト生存率(18歳以上を成人)
図28 成人、小児別累積グラフト生存率(18歳以上を成人)

参考のために、表6以降に、日本肝移植研究会がまとめた、2009年末までの全国集計に関するデータをまとめました。毎年このデータは発表されているので、生存率などは今後とも変わっていくことはあると思いますが、参考にされてください。

表6 日本の肝移植症例数
生体肝移植 5653  
死体肝移植 68  
脳死体から   65
心停止体から   3
初回移植 5566  
再移植 149  
再々移植 6  

(~2009.12 日本肝移植研究会集計)

表7 国内生体肝移植のレシピエント年齢・性別
年齢 0-9 10-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79
712 223 130 184 345 824 312 1 2731
993 239 167 198 344 656 316 8 2922
1705 462 297 382 690 1480 474 9 5653

(~2009.12 日本肝移植研究会集計)

表8 国内生体肝移植で用いられた肝臓の部分の一覧
  レシピエント年齢 合計
18歳未満 18歳以上
単区域(左外側の一部) 79 0 79
左外側区域 1439 5 1444
左葉 411 670 1081
左葉+尾状葉 74 772 846
右後区域 2 75 77
右葉 75 2028 2103
全肝(ドミノ) 0 21 21
二人ドナーから 0 2 2
  2080 3573 5653

(~2009.12 日本肝移植研究会集計)

表9 国内生体肝移植ドナーの年齢・性別
年齢 0-9 10-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79
0 39 900 1022 584 397 143 1 2579
0 18 567 925 562 405 91 1 2148
0 57 1467 1947 1146 802 234 2 4727

(~2009.12 日本肝移植研究会集計)

表10 国内生体肝移植におけるレシピエントとドナーのABO血液型適合度
  レシピエントの年齢 合計
18歳未満 18歳以上
同一 1392(%) 2469(%) 3861
適合 418(%) 791(%) 1209
不適合 270(%) 312(%) 582
  2080(100%) 3572(100%) 5652

(~2009.12 日本肝移植研究会集計)

表11 日本の肝移植後累積生存率
  症例数 患者生存率(%) 症例数 移植肝生着率(%)
1年 3年 5年 10年 15年 20年 1年 3年 5年 10年 15年 20年
死体移植 68 79.4 77.9 75.4 67     68 79.4 77.9 75.4 67    
脳死 65 83.1 81.5 78.9 70.1     65 83.1 81.5 78.9 70.1    
心臓死 3 0           3 0          
生体移植 5653 83.2 79 76.6 72.4 68.3 67.1 5653 82.7 78.2 75.7 70.5 66.1 64.9

(~2009.12 日本肝移植研究会集計)

図29 全国生体肝移植症例数(~2009.12 日本肝移植研究会集計)
図29 全国生体肝移植症例数(~2009.12 日本肝移植研究会集計)
図30 生体肝移植レシピエント年齢別生存率
図30 生体肝移植レシピエント年齢別生存率
図31 肝硬変の原因別生体肝移植後生存率
図31 肝硬変の原因別生体肝移植後生存率
図32 胆汁うったい性疾患に対する生体肝移植後生存率
図32 胆汁うったい性疾患に対する生体肝移植後生存率
図33 腫瘍性疾患に対する生体肝移植後生存率
図33 腫瘍性疾患に対する生体肝移植後生存率
図34 肝細胞癌の生体肝移植後生存率
図34 肝細胞癌の生体肝移植後生存率
図35 急性肝不全の生体肝移植後生存率(小児、成人を含む)
図35 急性肝不全の生体肝移植後生存率(小児、成人を含む)
図36
図36 代謝性疾患の生体肝移植後生存率(小児、成人を含む)
図37 血液型不適合肝移植後生存率
図37 血液型不適合肝移植後生存率
図38 成人の血液型不適合生体肝移植後生存率移植時期による変化
図38 成人の血液型不適合生体肝移植後生存率移植時期による変化

補遺) 肝臓移植に代わる治療法の可能性について

 肝臓の働きが非常に悪くなったために移植をする、いわゆる肝不全に対する肝移植では、これに代わって生命を救う代替療法は残念ながらありません。肝不全の程度にもよりますが、近いうちに生命の危機が訪れることが想定されているので肝移植が治療として呈示されています。肝不全で移植を受けない限りは、黄疸はもとより、亡くなるまで、腹水や反復する脳症、消化管出血などに苦しむこととなります。もちろん、すでに記載してきたごとく肝移植手術自体によって命を失ったり合併症が生じるリスクがありますが、その危険と肝不全自体で亡くなる可能性を、資料や説明によって比較して決めていただきたいと思います。

 もし肝移植が行われない場合は、今まで行われてきたような、利尿剤の投与、アルブミンの補充、脳症の特殊アミノ酸投与など、保存的な治療が継続されます。

 なお、肝臓がんの治療の目的で移植になるときは、肝機能は有る程度保たれている場合が多く、もし肝移植を行わなくても直ちに死亡する危険は、肝不全例より少ないと思われます。しかし、肝臓がんで、肝臓の切除や局所を焼く治療ができないときは、肝移植を行わなければ、ガンの増大と増多や転移が見込まれ、もし転移を来せば、肝移植治療の対象から外れます。そのような場合、代替療法は、姑息的な支援療法にとどまり、根治的治療は肝移植以外ありません。

 私どもは、あなたがもし肝移植を選択されない場合でも、あなたやあなたの御家族の希望に沿った場所と内容で治療が継続できるように対応いたします。また、いったん肝移植の実施を決めても、いつでもそれを撤回することは可能ですので、医師やコーディネーターに申し出てください。

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