患者様へ

肝移植の手引き

肝移植レシピエントの移植後の生活

1.感染症、予防接種

 レシピエントは術後の拒絶反応を軽くするため免疫抑制剤を投与されます。免疫反応は様々な病気の原因となる微生物の感染から生体を防御する働きがありますが、この能力は免疫抑制剤によって逆に低下します。そのため術後感染症が起こり易いので全てのレシピエントが抗生物質や抗ウイルス剤、抗真菌剤の投与を受けます。時には、感染症が死にもつながる合併症になり、事実、先に書きましたように移植後早期に死亡する方の原因の多くがこの感染症に起因するものです。免疫抑制状態以外ではあまり問題とらない特殊なウイルス感染も、移植術後数週以降に問題となることがあり、とくに、サイトメガロウイルス、EBウイルスがその代表的なものです。サイトメガロウイルスは、発熱、下痢、肝機能障害などを引き起こし、肺炎を起こすと致命的になることもあります。ただ、このウイルスには、ガンシクロビル(デノシン)といわれる薬があり有効なことが多いです。
 さらに、EBウイルスという特殊なウイルスがあり、これは日本人の大多数の方は、知らない間に感染してそれに対する抵抗力を持っているウイルスですが、このウイルスに対する抗体が無いか少ないようなレシピエントでは、時に、免疫抑制剤を使うことによって、このウイルスが活発になり、リンパ腺が腫れたり、熱が出たり、ときには悪性リンパ腫と言われるリンパの癌になってしまうこともあります。この感染が強く疑われるときには、免疫抑制剤を一時的に減量したり止めたりすることがあり、悪性リンパ腫に至った場合には強力なお薬による治療が必要なこともあり、また致命的になることもあります。
 はしかや水疱瘡といった流行性感染症に対しては有効なワクチンがあり、可能であれば、移植前に、術後の感染予防としてこれらのウイルスに対する抗体を作るためにワクチン接種をしておくのが望ましいことです。お子さんの場合、多数種類のワクチンを部位を変えて同時に複数投与することも行われています。ただ、肝機能が悪い方は、ワクチンを打ってもなかなか抗体ができない方もおられ、移植を待てない場合には、未接種で肝移植をうけることもやむを得ないことは多々あります。
 移植後は原則として生ワクチン接種(はしか、水疱瘡、風疹など)は接種してはいけない、とされています。ただ、私たちは、移植後も全身状態が安定していれば、1年後以降をめどに、生ワクチン接種を勧める方向にあります。この点に関しては、術後また相談いたしましょう。
 先に書きましたように、免疫抑制剤自体の副作用として、高血圧、多毛、歯茎の肉が厚くなる、腎臓障害、神経障害、発ガンなどの問題があります。毎日血中の濃度を測定してこまめに投与量を変えたりするなど、できるだけ副作用を少なくする工夫をして薬を使うように努めますが、どうしても不都合なときには、薬をいったん中止したり、変えたりする必要があります。

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