肝移植の手引き
(2)肝臓の大きさと術後経過への影響
生体肝移植では、準備した肝臓が、レシピエントにとって小さすぎたり逆に大きすぎたりする場合があります。小さすぎるのは成人移植の場合で、レシピエントの体格が大きくて、いただける肝臓が相対的に小さい場合です。大きすぎるのは小さな子供の移植の場合で、レシピエントの肝臓が占めていたスペースに比べて、用意される移植肝が大きすぎるためです。大きすぎる場合、肝臓に十分な血液が循環できなかったり、おなかを閉じる時に腹壁に圧迫されて移植肝の血の巡りが悪くなったりします。この場合、さらに肝臓を小さくけずる、レシピエントの腹壁を閉じずに一部創を開いたままにしておく、または人工的な膜を補助的に用いておなかを閉じるなどの対応がとられます。
一方、成人症例での小さすぎる場合は、肝臓がレシピエントに必要十分な働きができず、最終的にレシピエントが死亡するという最悪の結果になることもあります。そこで、あらかじめ、いただけるドナーの肝臓の大きさをCTという検査で推定し、いただく肝臓の大きさを調節して、できるだけ安全なように工夫して手術を行うようにします。ただし、肝臓は、どの部分でも好きなように大きさを調節して分割し切り取ることができる訳ではなく、一定の区域分けが設定されていて、この区域の境目でのみ安全に分けることができるという構造になっています(図22)。
図22 生体肝移植に用いられる肝臓の各部分 |
---|
また、ドナーから移植肝を切除後、一定の割合以上の肝臓がドナーにも残らないとドナーが危険になります。ドナーでのCT検査で、どの部分をきりとるとどの程度の大きさの肝臓をいただけてドナーにどれくらい残るか、が推定できるわけです。部分肝移植で用意される肝臓のうち、最も小さい区分は、左外側区域といわれる左の端の部分で、肝臓全体の約4分の1、となります。次に大きい区分は、肝臓の左側約3分の1をいただく、左葉、いちばんの大きいのが、右葉と言われる、肝臓の右側で、全体の約半分ないし3分2をいただくものです。レシピエントの状況によって必要な移植肝臓の大きさには差があり、大きい人には大きい肝臓が必要になる理屈です。このため、体格が子供に比べて大きい成人レシピエントの場合には右葉が用いられることが多く、一方、小さなお子さんには外側区域が多く用いられるということになります。移植される肝臓の大きさは、下限が、レシピエント体重の0.7%、上限が5%程度とされていますが、レシピエントの状態によっても左右されるのでこれが必ずしも絶対の条件ではありません。ドナーの体格が小さい場合には、大きな右葉を使っても、レシピエント体重の0.7%以上の肝臓をいただくことができない場合があり、そのときには、レシピエントの状態も勘案しながら対応を決定することになります。十分な大きさの肝臓をいただけるに越したことはないのですが、たとえば、右葉と左葉の差が大きくて右葉が相対的にとても大きい場合には、このドナーから右葉をいただいて移植する上で、レシピエントには大きな肝臓が移植される一方、ドナーには小さな肝臓しか残らないことになります。ドナーの安全も非常に大切であり、あまりにドナーに残る肝臓が小さすぎるときには、生体肝移植の実施を再考せざるを得ないことがあります。繰り返しますが、特に成人の方の移植の場合には、このいただく肝臓の量を慎重に検討しています。現在、最低でも肝臓全体の約30%以上が残るようなドナー手術を行うようにしており、逆に残る肝臓がこれ以下と予測されるときには、その方からの移植が困難となることがあります。